鈴木大介:鈴木流相振り飛車

鈴木八段の自戦記も掲載されています
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評価:B
対象者:8級〜二段
発売日:1998年11月

本書は、新進気鋭の振り飛車党による定跡解説&自戦記「振り飛車新世紀」シリーズの第5弾となります。前巻「鈴木流四間穴熊」に引き続いて、再び鈴木大介八段(当時は五段でスマートな体形!)の登場となります。テーマは相振り飛車。

戦型は先手の向かい飛車と後手の三間飛車で、囲いは▲金無双、△美濃囲い・穴熊となっています。本書が出版された1998年の時点で、相振りの四間飛車は狙いところに乏しいとされており、棋譜を見てもほとんどが▲向かい飛車△三間飛車でした。

「なんで矢倉がないんだ?」と思う方もおられるでしょうが、鈴木八段曰く「この手(早めの▲7五歩)を知っていれば相振りで矢倉をされる可能性はまずなくなり、考える必要がない。」だそうです。ただし、△6三金から高美濃に組んで▲6六角の好ポジションを阻止できれば、玉頭を守れますので後手としても不満はないですね。

全223ページで、見開きに図面が4つという構成になっています。目次は以下の通りです。

第1部 定跡編
先手向かい飛車相金無双編
後手美濃囲い・穴熊編

第2部 実戦編(自戦記)
新構想の成功―対室岡克彦六段
決勝で戦う―対藤井猛六段
攻めVS受けの戦い―対安西勝一五段
相三間飛車の戦い―対久保利明五段
矢倉の堅さを生かす―対小倉久史六段

穴熊に対しては囲いに手数が掛からない金無双がベスト

第1部 後手美濃囲い・穴熊編より:図は△2四角まで
局面は後手が△2四角と上がって、▲1五歩△同歩▲同香〜▲3三角成の先手からの攻め筋をあらかじめ防いだところです。△2四歩〜2五歩の筋が消えたため、ここで▲2六歩が鈴木八段の推奨の一手です。ここから▲2七銀〜2八玉〜3八金の銀冠への組み換えを狙います。

僕は最初、▲7四歩△同歩▲8五桂として、次に▲7三歩△同桂▲9三桂成の端攻めを狙うのかと思いましたが、鈴木八段曰く「少し急ぎすぎだろう」とつれない返事…。

しかし、2007年に発売された藤井九段の名著「相振り飛車を指しこなす本 Vol.1」によると、左辺と持ち駒は全く同じこの局面(唯一の違いは△2四角と1三角、△2三歩と2五歩の配置)で、推奨の一手はやはり▲7四歩△同歩▲8五桂でした(笑)

穴熊に対して金無双を選んだのは、矢倉と違い囲いに手数が掛からずには端攻めの体制を築くことが出来るからで、ここで攻めに出ないと駄目なようです。ただし、鈴木八段のこの▲2六歩も応用が利くいい手ですね。ま、棋風の違いと言うことで。

前半定跡解説で後半が自戦記というスタイルは好みが分かれるところで、正直僕はあまり好きではないです。ただし、本書が発売された当初は相振りの定跡化が進み始めたばかりの頃で、プロの相振り飛車の棋譜を見る機会も少なかったと思うので、この場合はいいのかなと感じています。

鈴木八段の著書にしては、わかりやすい狙い以外にもきちんと定跡解説をしており、10年経った今でも対穴熊の章は参考になります(現在においても対穴熊には金無双がベストの選択と考えられているから)。

ただし、本書は数年前に絶版となっていますので、これから相振り飛車を勉強するなら、前述の「相振り飛車を指しこなす本」シリーズや杉本七段の「相振り革命」シリーズなどを参考にしてみてください。

なお、「振り飛車新世紀」シリーズの第6弾は、杉本七段の「杉本流四間飛車―封殺!居飛車穴熊」となっています。