藤井猛:相振り飛車を指しこなす本 Vol.1

高段者も参考に手順が掲載されています
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評価:S
対象者:8級〜四段
発売日:2007年6月

振り飛車のスペシャリスト・藤井猛九段による浅川書房の「最強将棋21」シリーズ第三弾の登場です。「四間飛車を指しこなす本」「四間飛車の急所」に続く本シリーズのテーマは、この10年で急速に定跡の体系化が進み、アマ・プロ問わずに大人気の相振り飛車となっています。

通常の振り飛車とは全く異質の感覚が求められるため(藤井九段は何よりもセンスが大事だと本書の中で述べておられます)、▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩と後手の振り飛車を見せられると、相振り飛車を避けて▲4八銀から居飛車を選択してしまう方も多いと思いますが、本書は相振り飛車の感覚と定跡のポイントを基本から優しく解説していますので、苦手意識を持っている方もきっと克服できると思います。

全220ページの3章構成となっています。以前に「〜を指しこなす本」シリーズを読んだ方はご存知と思いますが、本書は最初のページから「次の一手」形式で問題と解説を読み進めていき、最後のページに辿り着いたら本を逆さまにして、また別の問題を1ページ目に向かって読む独特のスタイルとなっています。そのため、初めてご覧になった方は、本の分厚さ以上の読み応えに驚くことでしょう。目次は以下の通りとなっています。

第1章 二枚金(金無双)vs 二枚金
第2章 矢倉と矢倉崩し
第3章 穴熊登場
第4章 穴熊への攻め

穴熊を崩すなら囲いに手数が掛からない金無双がよい

第4章 穴熊への攻め:図は△3三桂まで
端が弱点とばかりに、単に▲8五桂と跳ねるのは△8四歩▲9三桂成△同銀▲9四歩△8二銀で駒損だけが残ってしまいます。正しい攻めの手順は、▲7四歩△同歩▲8五桂となります。次に▲7三歩△同桂(△7一金なら▲9三桂成△同香▲9四歩△同香▲同香△9三歩▲同香成△同桂▲9四歩)▲9三桂成△同銀▲9四歩△8二銀▲9三歩成で端が破れます。

まず初手からの駒組みからスタートしますが、後手の立場からの揺さぶりの手段や先手の手を咎める一手などを考える問題が出題されますので、何故その手が疑問手なのかをはっきりと認識することができます。

また、通常なら解答の文末に「なお▲〜は無理攻めで成立しません」と一行書いて終るところでも、本書では「この攻めは成立するでしょうか?」と問題として出題され、常に考えることを求められます。成立する場合はその手順、不成立の場合は具体的な受け方も解説されていますので、定跡を順に追っていく中で我々アマチュアが疑問に思う点も一つ一つ解消できるようになっています。

ちょっとした手順や持ち歩の数の違い、端の突き捨ての有無などの「似て非なる局面」が頻出しますので、藤井九段の「四間飛車を指しこなす本」よりも対象となる棋力のレベルは少し上がっていると感じます。

前半の金無双の章では、「飛車先の歩の交換」をして「浮き飛車に構えて」、「▲65歩と角道を開けて」から「▲7五歩と突いて飛車の横利きを通す」などの手順を初手から見ていきます。

最近は金無双を避けて違う囲いを採用するケースが増えていますが、▲6四歩△同歩▲6五歩△同歩▲6四歩の継ぎ歩の手筋、△1三角に対する▲1五歩からの攻撃(玉と反対側の駒を攻める手順を藤井九段は「B面攻撃」として紹介しています)、▲7四歩△同歩▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲8五桂からのスピード感のある攻めなど、相振り飛車を指す上での必修手筋がマスターできるので、とても大切とのことです。

また、穴熊に対しては金無双が一番手数が掛からずに端攻めの理想形を築くことが出来るので、相手の出方によって金無双、矢倉、美濃を使いこなせるようなればベストでしょう。

この辺りの囲いの関係は金無双→▲玉の堅い矢倉→△金無双は薄く、美濃は向かい飛車からの玉頭攻めが気になる→△穴熊から矢倉崩し→▲矢倉から穴熊への端攻めは手数が掛かりすぎる→▲金無双から穴熊崩しの順で見ていきます。

金無双と穴熊は囲ってしまったら後はバンバン攻めるだけで、急所に手がつくと粘りが利かない囲いです。対して矢倉は受身になりやすいものの粘りが利く囲いですので、その辺の使い分けが重要とのこと。

後半の穴熊崩しで登場する端攻めのパターンは形を変えて繰り返し出題されるので、桂馬を成捨てるのか、それとも▲9四歩△同歩▲9三歩でいくのか、手にした香車は9筋に2段構えにするのか、それとも8七に据えるのか、角を切るタイミングはどこなのかかが、よくわかります。

シリーズ一巻目から期待を裏切らぬ濃厚な出来となっています。これから相振り飛車を勉強したいが何を読めばいいかわからない方はもちろん、既に相振り飛車をバリバリ指しこなしているあなたもオススメしたい一冊です。

なお、後手の三間穴熊をめぐる攻防は、「戸辺流相振りなんでも三間飛車」の第3章、「深浦康市:最前線物語2」のP130〜で詳しく解説されていますので、お持ちの方はそちらも参考にしてみてください。

続編となる「相振り飛車を指しこなす本 Vol.2」では、いよいよ先手美濃囲いの登場となります。