鈴木大介の将棋 相振り飛車編

スピード感溢れる変化手順を掲載
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評価:B
対象者:8級〜二段
発売日:2009年7月

振り飛車での戦い方のエッセンスを伝授する「鈴木大介の将棋」。
以前紹介した「三間飛車編」に続くシリーズ第4弾のテーマはアマ・プロ問わずに相変わらずの流行を見せている「相振り飛車」です。

本書では、相振り戦で最も出現率が高い対△三間飛車と△向かい飛車における戦いを後手の囲い(穴熊・美濃・矢倉)ごとに見ていきます。なお、初手▲5六歩と指した場合、後手も振り飛車党だと「相中飛車」も覚悟しなければなりませんが、そちらの方は続編の「力戦中飛車編」で詳しく解説されています。

全222ページの2章構成。これまでと同様に見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通り。

第1章 対△三間飛車

  • ▲向かい飛車対△三間飛車
  • △3六歩急攻型
  • △3四飛型
  • △4四歩〜△4三銀型
  • △5四歩〜△5三銀型
  • △穴熊囲い
  • △美濃囲い(△5四歩〜△5三銀型・角交換型)
  • 後手矢倉囲い(△6四歩型・△6三歩型・角交換牽制型)

第2章 対△向かい飛車

  • △2四歩〜△2五歩型
  • ▲4五銀急攻型
  • ▲7五歩持久戦型
  • △5四歩〜△5三銀型
  • △4四歩〜△4三銀型
  • △飛車先保留型>
  • △5四歩〜△5三銀型
  • △4三銀型
対穴熊では端攻めが基本中の基本です

第1章 対△三間飛車 穴熊囲い より 図は▲9五歩まで
△2四歩には▲2二角成〜7七桂〜7四歩(突き捨て)〜8五桂からの端攻めを狙います。△2四歩に代えて△4四歩と角交換を拒否された場合には▲9七桂〜8五桂と▲2六飛を含みにします。

本書の特徴として、序盤の早い段階で主導権を握って局面をリードするための工夫が多く解説されている点が挙げられます。具体的には藤井九段の名著「相振り飛車を指しこなす本」シリーズでは、対△三間飛車・△向かい飛車ともに先手は▲7七角〜▲6八(7八)銀〜6七銀としてから▲8八飛と向かい飛車にしていましたが、本書では銀上がりを省略して▲7七角の後にダイレクトに▲8八飛と回ってから▲6八銀とする手順を採用しています。

戸辺流相振りなんでも三間飛車」でも登場したこの形は▲6七銀上がりを保留することにより、従来よりも1手早く▲6五歩と突ける(▲向かい飛車は△三間飛車より角交換に強い)、また△7七角成▲同桂となったときに6八の銀が桂馬にヒモをつけているので浮き駒が生じないという大きなメリットがあります。その分、序盤の数手で気をつけなければならない変化も生じますが、本書は初手からその辺もカバーしながら解説しているので安心です。

また、第1章の対△三間飛車では「金美濃(上図の先手の囲い)」も登場します。
この囲いは美濃囲いに比べて上部が厚い、角の打ち込み(ex:▲3八銀の瞬間に角交換して△2八角)に強い、また金無双のように右銀が壁にならない…などのメリットがあるため、特に△三間飛車穴熊に対して有効です。

プロの実戦では2008年に行われた第57期王将戦の第1局(羽生二冠:向かい飛車 久保八段:三間飛車)などでもこの囲いが登場していますので、見覚えのある方も多いのではないでしょうか。

第2章では△向かい飛車に対して、矢倉から▲5六銀の腰掛銀の構えを作り、早めに▲7五歩と突いて後手の矢倉を封じる指し方、また後手が2筋の歩を保留して△4四歩〜4二銀とした場合には▲6五歩から途中下車せずに最初から▲6八飛と回って、飛車と角を活用する指し方を解説。

序盤で相手の出方を見て、機敏に動き主導権を握るのは鈴木八段の十八番とのことで、解説は明快です。「本来は〜もあるだろうが、〜が面白いだろう」や「(別の手順で)先手不満はない。しかし〜方が相手の作戦の幅を狭めて分かりやすいだろう。」などページ数の都合上、本筋に近い手順も一部カットされていますが、この辺は仕方ないところ。相中飛車と相三間飛車を続編の「力戦相振り編」で解説する2冊構成に近い感じなので、内容が「浅く広く」なっていることもありませんでした。

相手が飛車を振る→それを見て自分の囲いを決める→相手が飛車を振りなおす」や「相手が浮き飛車にする→自陣のディフェンスラインを上げる→引き飛車から力を集結→ディフェンスラインを下げる」といった相振り飛車を指すうえでベースとなる思想(それぞれ「相振り飛車を指しこなす本 Vol.3」と「最新戦法の話」の第6講を参照)に関する話は全く登場しませんが、藤井本などでは見ることのできない序盤での新対策が掲載されているので、「まずは王様をガッチリ囲ってから…」と漫然と駒組みを進めていたらド作戦負けになることが多い方はもちろん、作戦の幅を広げたい有段者の方も一読の価値ありです。個人的には、シリーズの中では本書が一番使えそうだなと思いました。