鈴木大介の将棋 三間飛車編

対居飛車穴熊には真部流で対抗
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評価:C
対象者:8級〜初段
発売日:2009年4月

藤井九段・久保棋王と共に「振り飛車御三家」と称される鈴木大介八段による定跡+αの解説書第三弾。「中飛車編」「四間飛車編」に続く本書のテーマは三間飛車です。鈴木八段の三間と言えば、鈴木新手を引っさげて佐藤康光棋聖(当時)に挑んだ第77期棋聖戦での石田流が有名で、著書「石田流の極意 先手番の最強戦法」も記憶に新しいところですが、本書は通常の三間飛車(全て後手番)だけを取り上げています。

シリーズ第二弾の四間飛車編がニーズの多い対居飛車穴熊にのみ焦点を絞って解説したのに対し、本書では三間飛車における対急戦・持久戦を一冊にまとめているので、ページの関係上、掲載されている変化手順は限られています。そのため、有段者の方には少し物足りない内容かもしれません。

全222ページの3章構成で、見開きに4枚の盤面図が配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 後手三間 VS 居飛車急戦
従来の定跡
△5三銀・4二金型対▲4五歩早仕掛け
△5三銀・4ニ金型対▲6八銀〜5七銀左
△5三銀・4ニ金型対▲6八銀〜3七銀
斜め棒銀対策

第2章 後手三間 VS 居飛車穴熊
▲5七銀〜6六銀
▲5七銀〜5八金
▲5七銀〜3六歩
▲5七銀保留型

第3章 後手三間 VS 左美濃
▲6六銀型
▲6六歩型

いわゆる真部流の構え

第2章 後手三間 VS 居飛車穴熊より:図は△6五歩まで
6筋の位を抑えて△6四銀と上がる上部に厚いいわゆる「真部流(故・真部九段が連採)」の構えは、対居飛車穴熊戦では理想形の一つとされています。

重要なのは上図で△7三桂と跳ねて6五の地点への支えを用意しなくても、いきなり△6五歩が成立するという点です。△7三桂→6五歩→6四銀と桂跳ねを先に決めてしまうと、真部流の常套手段である△5一角から△7三角(8四角)への角の転換ができなくなるという欠点があり、自分で選択肢を狭めてしまうことになります。

△6五歩に▲同銀には△7三桂▲6六歩△4五歩から、機を見て△6五桂の銀桂交換から△6七銀の露骨な打ち込みを狙えますので、早くも後手指しやすい形勢となります。したがって、戻って△6五歩には▲7七銀の一手となり、後手は桂馬を跳ねることなく△6四銀と位をとることができます。

なお、△6五歩と突いた形は玉のコビンが空いていることに要注意。△6四銀を後回しにして、悠長に△9四歩などとしていると、▲2四歩△同歩▲同角△2ニ飛▲2三歩△同飛に▲4六角が王手飛車となり、いきなり投了となります。

このように、三間飛車をこれから指す人は「桂馬を跳ねずに△6五歩を突く」「△6五歩を突いたら直ぐに△6四銀と上がる」こと、居飛車党の方は対三間に限らず▲2四歩〜4六角の王手飛車の狙い筋が存在することを頭に入れておきましょう。知らなかった方はこれを機会に是非、覚えておいてください。超重要です。

急戦をテーマとした第1章では、従来のオーソドックスな定跡の解説は少なく、早い段階で△5三銀と上がり、通常は△5ニ金左として使う左銀を△4ニ金と真っ直ぐ上がって仕掛けに備える形、△7ニ銀を省略して、△4三金と上がり飛車の横効きを通してから△7ニ飛と「袖飛車」にして玉頭を狙う形、対斜め棒銀でも△4三金でガッチリ受けるなど、左金の動きで相手の急戦を封じてしまう狙い筋がほとんどです。

決して好形ではないものの、急戦の手がかりさえ与えなければ、陣形の発展性の差(▲船囲い VS △美濃囲い)で作戦勝ちに持ち込めるというのが、三間飛車側の狙いです。

ただ、通常の三間飛車を扱った棋書が長い間出ていなかったので、ここはやはり基本定跡である▲3七桂〜5五歩〜4五歩〜4六銀の仕掛けや、▲3七桂を跳ねずにいきなり▲4五歩と仕掛ける超急戦の解説も充実させて欲しかったです。一応6ページほど掲載されていますが、本筋のみを数手ほど追って簡単な解説を加えているだけですので、オーソドックスな定跡を期待して買うと相当ガックリするでしょう。

対居飛車穴熊の持久戦をテーマにした第2章は、先述の真部流の理想形を組み上げた後の攻防、居飛車穴熊が▲6六銀と上がらずに▲5八金〜6六歩とする形、▲5八金〜6六歩も省略して▲3六歩から速攻を狙う形を定跡に沿って見ていきます。左辺をあまり相手にせず軽く受け流しておいて、中央から積極的に動いて局面をリードする成功例が解説されています。

具体的には△5五歩▲同歩△5ニ飛から△5六歩の垂れ歩、△5一角〜8四角の転換から△5五歩〜5六歩の垂れ歩などです。この辺りの手順を盤で実際に並べれば、対居飛車穴熊で「捌ける」とはどういうことなのかが、具体的にわかります。

ただし、全ての形が△5三銀を基本としていますので、対居飛車穴熊における有効な作戦の一つである「△4三銀型から石田流へ組み換えて、飛車交換を狙う」ダイナミックな指し方などは一切触れられていないのが残念です。個人的にはこの戦法こそ本書のタイトルである「鈴木大介の将棋」に相応しいと思うのですが…。実際、「鈴木大介:最強力戦振り飛車マニュアル」にはしっかりと掲載されています。盤面図も張ってありますので、どんな形かわからない方はリンク先を参考にしてみてください。

冒頭にも書いたのですが、急戦・持久戦を一冊したので全体的にキツキツな感が否めない上、本来ならばもっと載っていてもおかしくない形がカットされているのが残念です。

絶版になった棋書を「1冊…2冊…やっぱり、一冊足りない。恨めしや〜」とお岩さんよろしく恨んでもしょうがいないのですが、「コーヤン流三間飛車の極意 急戦編」が絶版になったが早すぎましたね。中級から高段者まで急戦はこれ一冊あればほぼ完璧だったんですが…。またこちらも絶版ですが、真部流に関する定跡は「三間飛車道場 第1巻 居飛穴 vs 5三銀」が詳しいです。どちらの本も良書ですので、古本屋で見かけた場合は中身をチェックしてみてくださいね。

なお、シリーズ続編となる第四弾は「相振り飛車編」となっています。