森下卓:初段に勝つ矢倉戦法

理想形からの攻めを中心に解説
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評価:C
対象者:8級〜3級
発売日:2003年2月

創玄社からは同じく森下九段による「なんでも矢倉」が出版されていますが、そちらは対振り飛車での角引き矢倉や後手番における無理やり矢倉などが解説されていましたが、本書ではオーソドックスな相矢倉がテーマとなっています。

「初段に勝つ」とあるように、中級者の方が対象となっており、細かい手の是非よりも基本定跡や寄せ方など、矢倉の大筋をつかむことを主眼としています。

全222ページの3章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 矢倉基本編
第2章 ▲3七銀戦法編
第3章 急戦矢倉編

双方の棋力が同じでここまで組めたら、油断しない限り「勝ち」です

第2章 ▲3七銀戦法より:図は△4五同歩まで
先手が▲3七銀戦法の理想形を築き上げて▲4五歩と仕掛け、後手が△同歩と応じたところです。ここからは定跡となっている手順で、▲4四歩△同銀▲4五銀△同銀▲4四歩△5三金▲4五桂△52金▲4三銀で先手優勢となります。

途中、▲4五銀△同銀に一度▲4四歩とくさびを打ち込んでから▲4五桂と銀を取り返すのがポイントです。なお▲4五銀に対して△3五銀とされた場合は、強く▲同角と切って、以下△同歩▲4四歩△5三金▲3四銀でやはり先手優勢です。

第1章は矢倉基本編というタイトルが付けられていますが、ここでいう基本とは7手目▲2六歩と突き(飛車先不突きが主流の現代では珍しい)、24手目の△7四歩で先後同型となるいわゆる「矢倉二十四手組」のことを指しています。本書ではそこから、「棒銀端攻め」と「スズメ刺し」にする手順と攻め筋を解説しています。

第2章の▲3七銀戦法では、まず後手が漫然と駒組みを進めた結果、先手が▲3六銀・3七桂・2六角・3八飛と理想形に組むことが出来た場合を想定。そこからの仕掛け方と勝勢になるまでの代表的な手順を解説しています。この形での攻め筋は有名ですので、こうすんなりと組ませてはもらえませんが、矢倉を学ぶうえでは必修です(「羽生の頭脳 5巻 最強矢倉・後手急戦と3七銀戦法」には掲載されていません)ので覚えておきましょう。

この章ではほかに、後手がこの理想形を阻止しようと△4五歩と突いてきた場合の正しい対処法、先手棒銀、▲4六銀戦法も見ていきます。

最終章ではカニカニ銀と米長矢倉など急戦に分類される戦型の狙い筋を紹介しています。米長矢倉は先手番で受ける側としてではなく、攻める側で紹介するのは珍しいですね。

全編を通じて私が感じたのは後手の駒組が漫然としすぎているということです。先手の理想形からの攻め筋を解説するには一般的な手法ですが、相手は初段である以上、後手の対策ももう少し厳しいものになるはずです。その辺を加味してほしかったかなと。

あくまでも「初段に勝つ」というタイトル通りに行くなら、現代矢倉の主流である▲3七銀戦法一本に絞って解説し、そのほかは「手筋の達人 矢倉の手筋が満載」などにある矢倉特有の手筋をたくさん解かせるのが一番の近道だったのでは、と思います。

中級者の方ならば森下九段が著した名著「現代矢倉の思想」、「現代矢倉の闘い」で勉強した方が、有段レベルになっても通用する基礎力を身につけることができるでしょう。