森下卓:現代矢倉の思想

32手組に至る一手一手の解説が秀逸
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評価:S
対象者:5級〜四段
発売日:1999年5月

90年代前半の矢倉定跡を「森下システム」で牽引した序盤の大家・森下九段による矢倉定跡本の決定版です。

本のタイトルからすると難解極まりない棋書のような感じを受けますが、中身は至ってシンプル。加藤流▲3七銀から郷田流、そして後手矢倉の救世主とも言える森内流まで、現代の矢倉定跡を大筋の変化のみに絞ってわかりやすく解説していきます。

全222ページの6章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。

第1章 基本の32手と後手急戦
第2章 矢倉の原点・加藤流
第3章 加藤流の攻防
第4章 21世紀の主役・森内流
第5章 郷田流3八飛戦法
第6章 佐藤流3五歩早仕掛け

全てはここから始まります

第1章のテーマとなっている「基本の32手」の解説が素晴らしく、上の局面図に至るまでのポイントとなる手を後手の対策と共に解説します。

例えば、▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩の矢倉の序盤では、次の5手目に▲6六歩と指すが現在の主流ですが、▲7七銀だとどういう点に留意する必要があるのかを見ていきます。

まず棒銀と陽動振り飛車への対策。これは簡単に対応できるので問題ないのですが、△5三銀右〜5四歩〜5五歩〜同角の急戦策が少し厄介です。中央から戦いを起こして▲7七銀を遊ばせようという高等戦術で、この段階では優劣はつきませんが、△6四角から7三桂馬と攻撃態勢を敷かれると、後手に主導権を握られた感があります。

5手目▲6六歩と銀の動きを保留しておけば、後手が急戦策で来ても中央に備えることも出来ますし、何より後手に余分な選択肢を与えないですむという点が大きい。これが5手目▲7七銀が減っている理由です。

次に▲6六歩とした場合に、後手が居玉の状態で△8三銀〜8四銀〜9五銀と急戦棒銀と来た場合の正しい受け方(先手ハッキリ優勢となります)を解説。何気なく指している序盤の手順に潜むこれらの変化をしっかりと押さえた上で、正統派矢倉の章へ入っていきます。

解説は細かい手順には一切触れずに、本筋の変化だけに焦点を絞って、その狙いをわかりやすく噛み砕いています。これは、未知の局面に出会っても自分の力で正着を見い出せる「考え方」に主眼を置いているからだと前書きにあります。

続編となる「現代矢倉の闘い」との2冊構成のため、1ページ辺りの進行手順は2〜8手と比較的緩やかで、中級者の方であれば無理なく頭の中で消化できるでしょう。

本書は「羽生の頭脳」から6年経ってからの刊行ですが、定跡という面で見ると「森内流」の登場が一番大きな違いとなっています。「森内流」とはその名の通り森内名人創案の指し方で、飛車先の歩を8四で止め、△9四歩と端歩を優先し、△9三桂〜8五桂の活用を図るのが最大の特徴となっています。

7三の地点にはいずれ角が引くことが多く、となると桂の使い道が難しいのですが、この森内流ならすぐに端桂から△8五桂の反撃をることが出来ます。この森内流は本巻だけでなく、次巻でも詳しく解説されています。つまり、現代矢倉のあらゆるシーンにこの指し方が登場し、定跡に大きな変化をもたらしたのです。

現代矢倉の基礎を学びたい人は、まず本書からスタートするのが一番。矢倉の面白さを実感できながら、一通りの定跡をマスターできるのは本シリーズくらいではないでしょうか? 続編となる「現代矢倉の闘い」と併せて読めば、基礎はバッチリです。

高段者の方には、3七銀戦法のあらゆる変化を網羅してまとめた森内名人の「矢倉3七銀分析」、最新型となる「宮田新手(▲6五歩)」の定跡を勉強したい方には「矢倉の急所 ▲4六銀・3七桂型」がオススメです。