小倉久史:小倉流向かい飛車の極意

将棋倶楽部24では人気の戦法です
この本の詳細をAmazonで見る

評価:C
対象者:8級〜二段
発売日:2003年9月

下町流三間飛車」でお馴染みの小倉六段が著した向かい飛車の解説書です。プロ棋士のご兄弟には東大に行く方がが多いそうです(森下九段の本に書いてありました)が、小倉六段のご兄弟も二人とも東大卒とのこと。これは知っておくと自慢できる(?)トリビア的なネタですね。

向かい飛車にするためには居飛車側に△8四歩〜8五歩をすんなりと突いてもらわなければなりませんが、本書ではその工夫として▲7六歩△8四歩に▲5六歩としています。その意味は、▲5六歩に対して△3四歩なら▲5五歩から5筋位取り中飛車を目指す(「鈴木流豪快中飛車の極意」参照)指し方が、また△5四歩なら▲2六歩から相掛かりを目指す指し方があり、居飛車側としては△8五歩として先手の形を決めてもらいたいということになるわけです。このように△8五歩と突かせて▲7七角とスムーズに上がれれば、次に▲8八飛車から向かい飛車にすることができます。

また、2手目△3四歩の場合は、直接向かい飛車にすることはできませんので、▲6六歩と角道を止めて三間飛車にした後に、向かい飛車に振りなおします。

向かい飛車にした後のテーマは「居飛車に△6四歩を突いてもらう」となっています。この歩を突くと居飛車側の作戦がかなり限定され、居飛車穴熊や左美濃などの持久戦にしたときはマイナスとなるからです。

△6四歩と突かせたら、対急戦には穴熊から▲3八飛として玉頭攻めを、対持久戦には8筋からの逆襲や▲6五歩からの決戦策が小倉流のチョイスです。

全222ページの4章構成で見開きに盤面図が4枚配置されています。

第1章 基本図までの駒組み
第2章 先手番向かい飛車
第3章 三間飛車からの変化型
第4章 実戦編

第2章 先手番向かい飛車より:図は△4二玉まで
△6二銀と上がっていないため、▲8六歩△同歩▲同角以下、飛車を素抜く筋はないと読んでの△4二玉です。ここで▲8六歩は△同歩だと、以下▲同角△3二玉▲8三歩△8八角成▲8二歩成△6二銀▲8五飛△9九馬▲8三飛車成で先手優勢です。

しかし、▲8六歩には△同歩に代えて、△7七角成▲同銀△8六歩▲同銀△7四歩▲4八玉△7三桂とされると8六の銀が重く、先手難局となってしまいます。

小倉六段の自戦記が全体の半分を占めていますので、肝心となる講座編の内容が薄く、第1章では「(△6四歩と突いた)居飛車穴熊など持久戦に対しては8筋からの逆襲を仕掛けるか、▲6五歩の筋で早期に決戦に持ち込むのが小倉流です。」と言っておきながら、講座編では全く触れられていません。

第3章の「2手目△3四歩には▲7八飛と途中下車→向かい飛車に振りなおす」筋は一手損しているので、後手番で向かい飛車にした場合と同じです。
この形は本書では7ページしか用意されておらず、先に出版された島八段の名著「島ノート 振り飛車編」の方が詳しく(笑)、特に持久戦模様の居飛車の対策は本書に掲載されていない形が複数紹介されています。

ただし、急戦調の将棋における「先後の玉・銀の位置の違い」による仕掛けの成否だけはかなり詳しく、この部分が小倉流向かい飛車の生命線ですので、入門書としてはよいかもしれません。

本書の出版以降にプロの公式戦で現れた最新型は、深浦王位の「最前線物語2」のP101〜に掲載されていますので、お持ちの方はそちらをご確認ください。