鈴木大介:鈴木流豪快中飛車の極意

いわゆるゴキゲン中飛車の対急戦・持久戦を解説しています
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評価:B
対象者:5級〜二段
発売日:2003年2月

角道を止めないで▲5八飛と振る、いわゆる「ゴキゲン中飛車」についての定跡解説書です。鈴木八段は公式戦でのこの新型中飛車の採用率が石田流と並んで非常に高く、本書の前書きにおいても『この新型中飛車の生みの親が近藤さんのゴキゲン中飛車であれば、それを研究、そして定跡・体系化を進めたのが私の豪快中飛車で、いわば育ての親であると思うのだ。』と自負しておられます。

全237ページの7章構成。見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下のようになっています。

序章 基本図までの駒組み
第1章 基本図から△8六歩
第2章 基本図から△6二銀
第3章 基本図から△5二金右
第4章 基本図から△5二金右
第5章 基本図から△8八角成
第6章 基本図から△3二金
第7章 後手番豪快中飛車

5筋と7筋の位を取って躍動感のある展開に

第6章 基本図から△3二金より:図は▲4六歩まで
以下△5二金▲8六飛△8五歩▲7六飛△7二飛▲7七金(!)△7四歩▲6六金△7五歩▲同金で先手よし。飛車交換を迫り△8五歩と謝らせておいて、手順に▲7六飛と回る手順が実に気持ちいい。7筋の反撃には力強い▲7七金上がりで先手よしです。

どの章も居飛車の指して手に合わせた中飛車側の狙い筋(ex:上図の手順など)がわかりやすく紹介されているので読みやすいです。しかし、居飛車側の対策が試行錯誤されていた2003年が出版時期のため、掲載されている居飛車側の形が古い、またはバランスが悪いのが難点で、△4三金・4二銀・4二玉の形など、伸展性に乏しい囲いが多かったり、△6二銀の形のまま居飛車穴熊に組みに行ったり(現在なら△6四歩・6三銀)しています。

当然、序盤に居飛車側(先手)から角交換をして▲9六歩を突き、▲7八銀と美濃囲いの基礎を作り、さらに▲4六歩・4七銀を急いで5筋に争点を作らせない、いわゆる「新・丸山ワクチン」は掲載されていません(追記:「鈴木大介の将棋 中飛車編」で詳しく解説されています)。

この居飛車の形は持久戦で美濃囲い→高美濃→銀冠の三段進化が可能なのに対し、ゴキゲン中飛車側は囲いの進展性がないので、現在居飛車の最有力対策としてアマ・プロ問わずに流行しています。

この辺の対ゴキゲン中飛車の進化の過程は、勝又六段の名著「最新戦法の話」の第5章において、詳しく解説されていますので、ゴキ中党だけでなく居飛車党の方も一度ごらんになってください。

四間飛車や三間飛車などと違い、この中飛車に関する棋書は少ないので、少々古くても入門書的なものは本書を含めても数冊しかないのが現状です。

類書には近藤六段の「ごきげん中飛車を指しこなす本」、阪口四段の「ナニワ流ワンパク中飛車」などがありますので、本屋でパラパラと目を通してみて自分の好みにあったものを選ぶと良いでしょう。それぞれ出版年数が違っており、中飛車側の基本スタイルは変わらないものの、居飛車側の対策にばらつきがあるので、その辺を確認しましょう。