小倉久史:下町流三間飛車 居飛穴攻略の新研究

イビアナ退治のレパートリーのひとつにどうぞ
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:2006年4月

小倉流向かい飛車の極意」の著書が知られているオールランドな振り飛車党・小倉久史七段の新作は、三間飛車による居飛車穴熊破りがテーマとなっています。

前書きによると「下町流〜」というのは小倉六段が、17歳から住んでいる江東区大島(下町)から付けられたとのこと。事情がわからない人がタイトルだけ見るとB級戦法っぽい感じですが、中身は小倉六段の独自研究に基づく本格的な内容となっています。

全222ページで盤面図は見開きに4枚、前半の戦形解説と後半の実戦編(自戦記)による二部構成となっています。目次は以下の通りです。

第1部 講座編
対居飛穴玉頭銀、▲5八金型と▲7八金型石田流、先手番相穴熊、後手番相穴熊

第2部 実戦編
玉頭銀に自信を深めた一局 対飯塚祐紀六段
後手番でも通用した玉頭銀 対佐々木慎四段
大器を前に新手の閃き   対渡辺明五段
作戦負けを跳ね返しての勝利 対塚田泰明九段
相穴熊の寄せ合いを制す  対平藤眞吾六段
居飛穴の大家に挑む    対田中寅彦九段

居飛車側の弱点である角頭の歩を狙います

第1部 対居飛穴玉頭銀より:図1は▲5八飛まで
石田流を目指す出だしに後手が居飛車穴熊を見せたところで、▲5六銀と弱点である3四の歩を狙いにいきます。居飛車側も△5五歩から△8四飛の浮き飛車によって守りますが、今度は伸びた5五歩を目標に▲5八飛と振り直したところです。次に▲5六歩△同歩▲同飛としてから▲5四歩の垂れ歩でと金作りと▲3四銀を狙います。

石田流の理想形で飛車交換にも強い

第1部 ▲7八金型石田流より:図2は▲4四銀まで
立石流と同様に▲7八金型石田流は7筋の歩がきれると▲7九歩の底歩が利くので、飛車交換も怖くないのが特徴です。図以下は、▲7四歩△同歩▲6五歩(飛車取り)△8二飛▲7四飛△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8二飛▲6四歩△7三歩▲8四飛とぶつけて飛車交換を迫ります。

この▲7八金(△3二金)型石田流は「鈴木大介:最強力戦振り飛車マニュアル」や「三間飛車道場 第2巻 居飛穴vs4三銀」などにも掲載されています。変化手順は「三間飛車道場」には及ばないものの、読みやすさでは本書が優ります。
また、比較的新しい指し方である▲7七角から▲6五歩と角交換を挑む手順も詳しく解説されている点もグッド。

矢倉流中飛車と同じ形です

第1部 後手番相穴熊より:図2は▲2六飛まで
△6四銀と早めに繰り出し、▲6六銀と角道を止めさせて、今度は薄くなった4筋に飛車を振りなおします。図は▲2六飛と受けていますが、本書は▲4八飛の両方を解説。後者なら後手も穴熊に組めます。

図は中飛車から同じ手順で△4二飛とする「矢倉流中飛車(関西の矢倉六段が連採してその名がついた)」と全く同一局面で、「中飛車道場 第4巻 6四銀・ツノ銀」で以下の手順が、非常に詳しく解説されています。

紹介されているどの戦法も仕掛けまでの駒組が優しく(相手の指し手がかなり限定できる)、居飛車穴熊に対して三間飛車側から積極的に動いていける点がセールスポイントです。

中田功六段の「コーヤン流三間飛車の極意 持久戦編」とはまた一味違った三間飛車ですので、戦法の幅を広げたい方や居飛車穴熊に苦しめられている方には参考になると思います。

ちなみに瀬川四段は竜王戦6組で著者の小倉六段と対戦した際、本書に掲載されている手順でそのまま潰されました(笑)。その感想戦で小倉六段に「この変化、オレの本に書いてあるんだよ」と言われて以来、今まで以上に定跡書に目を通すようになったとのことです。