森下卓:8五飛を指してみる本

森下流の丁寧な解説が好評
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評価:A
対象者:5級〜二段
発売日:2001年11月

中・終盤が同居するスピーディな展開、飛角桂による華麗な捌き、そして後手番専用の戦法に関わらず高勝率を記録したことからプロ棋界で大流行を巻き起こした「横歩取り△8五飛戦法」。

本書は、一見すると難解でどこが急所なのか掴みどころがなさそうな同戦法の序盤から仕掛け、寄せまでを丁寧に解説した「△8五飛戦法」の入門書です。解説はその丁寧な語り口に定評のある森下九段。

藤井九段の人気シリーズ「四間飛車を指しこなす本」や「相振り飛車を指しこなす本」と同様に、ポイントとなる局面で「次の一手」形式の問題が出題され、次のページで解説を読んだら、また数手進んだところで問題が出される…というスタイルになっており、序盤から終盤までの指し手の意味をしっかりと理解しながら読み進めることができます。

そして、最後のページに辿り着いたら、今度は本をひっくり返して、最初のページに向かって別の問題を解いていくという独特の手法も同様です(この方式のほうが一冊に掲載できる分量が増えるため)。全124ページの4章構成となっています。目次は以下の通りです。

  • 第1章 超急戦の基本
  • 第2章 中住まいの攻略
  • 第3章 △4二玉型の攻防
  • 第4章 角交換型への対策

この戦法は双方の角道が通っているだけでなく、飛車が不安定な位置にいるため、序盤で油断できない筋がかなりあります。第1章ではその筋を重点的に解説しているのが、うれしいところです。例えば下の例題はどうでしょうか?

第1章 超急戦の基本より(便宜上盤面は先後逆です):図は△8七歩まで
正解は▲8七同銀です。▲8七同金は△8六歩▲同金△7七飛成▲同桂△3三角打が強烈です。以下▲2二飛成△同銀▲6八玉の頑張りには△2八歩で痺れます(▲同銀は△2五飛が金銀両取り)。

第1章 超急戦の基本より(便宜上盤面は先後逆です):図は△3三角打まで
先の問題の正解手▲8七同銀に対して、それでも後手が△3三角打とした場合はどうでしょうか? ▲2八飛と逃げるのは△7七角成▲同金△同角成▲4八玉△2三歩で銀・香取りが残るため先手不利です。

正解は▲2二飛成△同銀▲5八玉です。そこで△8九飛と打たれても▲5九飛と合わせてなんでもありません。

横歩取りで△8五飛戦法にするかどうかの選択権は後手にありますので、本書では全部後手の立場から考えますが、便宜上盤面をひっくり返して、後手が下になるようになっています。

問題図から次の問題図までに進行する手数はだいたい1〜5手。問題図の下には『前問から▲〜△〜▲〜△〜と進んだところです』と明記されていますし、解答図の解説も手短に最重要ポイントだけを伝えています。

また、その局面で別の変化手順や候補手がある場合は、別途問題で出題して解説するなど、読み手を意識した非常にわかりやすい構成になっています。

著者の森下九段は本書に先立って、同じ河出書房から「8五飛戦法−未来の定跡」というプロ棋士の実戦をベースにした研究書を出していますが、そちらは難易度がかなり高くなっています。

出版から10年近く経ちますが(・・・っていつ書いてるんだこのレビュー!?)、序盤に潜む落とし穴や変化手順を一つ一つ潰して、不安なく△8五飛戦法を指すためには現在でも最適の入門書であることには変わりありません。