森下卓:8五飛戦法−未来の定跡

著者の試行錯誤が垣間見れる
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評価:B
対象者:初段〜五段
発売日:1999年10月

△8五飛戦法を創案したのは中座真七段ですが、同戦法を本格的に解説した最初の棋書は森下九段が著した本書となりました(中座さんは2年後に「横歩取り後手8五飛戦法」を執筆)。

本書が刊行された1999年は△8五飛戦法がプロ棋士間で爆発的に指され始めたころですので、定跡化には至っておらず、まだ試行錯誤の段階です。
したがって、サブタイトルには「定跡」の文字が入っていますが、実戦をベースとした「研究書」と思ってもらったほうがよいでしょう。

全238ページの4章構成で見開きに盤面図が4〜5枚配置されています。目次は以下の通りです。

プロローグ 節目となった3局(松本vs中座・島vs井上・丸山vs野月)
第1章 オーソドックスな中住まい(羽生vs谷川・佐藤vs丸山…ほか9局)
第2章 一手の違い−スピード重視の銀立ち(羽生vs谷川・森下vs佐藤…ほか9局)
第3章 一路の違い−連携抜群の玉上がり(郷田vs丸山・森下vs中原…ほか11局)
第4章 ヒネリ飛車の力戦へ(羽生vs谷川・先崎vs内藤)

第1章 オーソドックスな中住まい ▲佐藤(康)VS △谷川より:図は△8六同飛まで
第57期名人戦の第2局で現れた局面です。実戦は▲3五歩△2五歩▲5六飛△8五飛▲7五歩△同飛▲3三角成△同銀▲7七桂と進みました。

途中△2五歩に代えて単に△8五飛とすると▲3三角成△同桂▲8八銀で、以下△3五飛なら▲3四歩△同飛▲5六角で先手良しとなります。

森下九段を含めたプロの将棋を題材としているのですが、テーマ図までの進行は棋譜が掲載されておらず、そのまま解説がスタートし、勝敗がハッキリとした段階で最終図(終了)となります。最終図以降の棋譜は章末でまとめて掲載されています。

各章内で登場する将棋はどれも途中の局面までは同じです。例えばAの将棋が終了図を迎えたなら、Bの将棋の冒頭で「Aの将棋では○×の局面で▲〜と指したが、▲〜としたらどうだろうか?」という研究テーマを掲げて、その変化をBの実戦で見て行きます。それが終了すれば別の研究テーマをCの将棋で・・・という具合です。

研究テーマは「△5四歩は上手くいかなかったので、今度は△7四歩と突く」という直接的な手もあれば、「△9四歩▲9六歩の端歩交換をしないで、△7五歩は成立するか?」「1筋の交換を入れないで互いに玉を囲うのはどうか?」「先手中住まいの序盤で▲3六歩と▲4八銀のどちらを先にするか」など、プロっぽく曲線的な内容のものもあり、高段者を意識した内容も目立ちます。

ただし、そういうのを抜きにして△8五飛戦法の「らしい」戦い方を勉強したい方には、攻め合いから優劣がハッキリする局面まで解説してあるので参考になると思います。森下九段の解説もわかりやすいですので自戦記形式の本や「将棋世界」のタイトル戦の特集コーナーなどが好きな方にもオススメです。

森下九段は本書に続いて「8五飛を指してみる本」も著していますが、そちらは同戦法の入門書としてピッタリの内容になっていますので、中級〜初段クラス前後の方はそちらを参考にしてみてください。