渡辺明の居飛車対振り飛車 Vol.2

竜王得意の居飛車穴熊ももちろん登場します
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評価:A
対象者:8級〜三段
発売日:2008年2月

渡辺明の居飛車対振り飛車 Vol.1」では、対中飛車・三間飛車・向かい飛車における代表的な居飛車急戦・持久戦策を見ていきましたが、本書のテーマは対四間飛車における居飛車急戦・持久戦となっています。

全215ページの3部構成で、見開きに盤面図が3枚配置となっており、前巻と全く同じ作りですね。目次は以下の通りです。

第1部 四間飛車対位取りと急戦
居飛車位取り / ナナメ棒銀の速攻 / ▲4五歩早仕掛け
棒銀の攻防 / 四間飛車対急戦の実戦 第2部 四間飛車対居飛車穴熊
四間飛車銀冠 / 居飛車穴熊対策の工夫
藤井システム登場 / 藤井システムへの対策 / 先手藤井システムへの対策
第3部 四間飛車穴熊の戦い
四間飛車穴熊対銀冠 / 相穴熊の攻防

第2部 四間飛車対居飛車穴熊 先手藤井システムへの対策より:図は▲4七銀まで
ここから△2四歩▲2六歩△1二香▲2五歩に構わず△1一玉と穴熊に潜るのが斬新な手順です。以下、▲2四歩△2二銀▲5六銀△2四角▲4五歩△2三歩と進み、穴熊が完成した後手が優勢となります。穴熊阻止がコンセプトの藤井システムでここまで組まれてはいけません。

この章は先手藤井システムをテーマにしているため、居飛車が後手(盤面図が上)になっていますが、他の章では先手(盤面図が下)ですので、安心してください。

前巻でも居飛車穴熊の登場以前と以降までの作戦の変遷を順に追って見ていきましたが、本巻でも時系列で双方の対策を振り返りながら講座を進めて行きます。
大まかには、現代将棋のスピード化や合理化などよって、現在ではほとんど指されていない玉頭位取りと5筋位取り→位取りと同じ手数で組めて玉が堅く、攻撃力もある居飛車穴熊の登場→▲6六銀を許すとガチガチに固められるので、四間飛車側は早めの△7三桂で▲6六歩〜6七金を強要して4枚穴熊を阻止→左金を▲7八金(従来は▲7九金)と上がり、▲5七銀〜6八銀〜7九銀を目指す「松尾流穴熊」の登場といった具合です。

この流れは四間飛車側が居飛車に穴熊を組ませることを前提としていますが、居飛車穴熊に組ませない「藤井システム」ももちろん登場します。こちらの方は、漫然と居飛車穴熊を組みに行くとボコボコにされるので、警戒して駒組みを進め手に乗って反撃する手順、あるいは四間飛車側の居玉の駒組みや端歩の2手を咎めるために急戦に転じるなど、柔軟性を持たせた指し方を見ていきます。

この辺りの対藤井システムの攻防を1冊でまとめ、その狙い筋を中級者向けにわかりやすく解説している本はほとんどない(「最新戦法の話」、「最前線物語2」は進化の経緯と新手が登場した周辺の手順を重視)ので貴重だと思います。

急戦の章は、渡辺竜王が『対四間飛車での急戦の中で一番優秀』と評価している棒銀戦法が詳しく、「森安流」の△4三金から、△1二香・5三角・4二金の最強の構えまでを解説しています。

一方、アマチュアに人気の▲4五歩早仕掛けは▲6九金型限定となっており、▲2四歩△同角▲4四歩△同銀▲4三歩△同飛▲2四飛の仕掛けから▲9五歩と端を絡める「郷田新手」と、この流れを不満と見た四間飛車が序盤で△5四銀と玉頭銀に変化する手順を中心に見ていきます。

竜王戦(羽生-藤井、羽生-森内)という桧舞台でも登場している▲6八金型(「四間飛車破り 急戦編」、「四間飛車の急所 急戦大全 下巻」が詳しい)は講座編では全く触れられていないのが残念です。渡辺竜王の著書「四間飛車破り 急戦編」では、この形の新研究の手順を披露しているにもかかわらず、どうして本書ではカットしてしまったのでしょうか?

しかも、章末の実戦編は本書のテーマとなっている▲6九金型ではなく、この▲6八金型を採り上げている点がよくわかりません…何故に?

対四間穴熊の章は、通常の銀冠の攻防に加えて、銀冠から穴熊に組み替える手順(「島ノート 振り飛車編」以来の登場)、また相穴熊の章では、▲6六歩と角道を止めながらも▲6七金とせずに、▲6九金〜7八金右とする形や▲6六銀と上がる形など、アマチュアよりもプロの将棋でよく見られる形を解説しています。

解説の歯切れよさは前巻と同じですし、また『棒銀側の目安としては、△1四歩には▲1六歩と受ける。△6四歩を待ってから▲2六銀。こう覚えておけば間違いありません。』、『居飛車穴熊は▲9八香と上がった瞬間が一番危なく、危険度は80。△8五桂〜6五歩の筋があります。次が▲9九玉と引いたところで、△6五歩からの角交換があるため危険度60。』などのアドバイスも随所に登場します。

抜け落ちている部分がいくつかあるものの、対四間飛車の急戦と持久戦をコンパクトに1冊でまとめた点は高く評価できると思います。前巻と併せて読めば、対振り飛車の基本はバッチリじゃないでしょうか?

ただ、対四間飛車の本は数多く出版されていますので、渡辺竜王の名著「四間飛車破り 急戦編」、「四間飛車破り 居飛車穴熊編」などをお持ちの方は改めて読む必要はないでしょう。

「NHK将棋講座」の単行本では「木村一基の急戦・四間飛車破り」が居飛車対四間飛車の急戦にテーマを絞って解説していますので、気になる方はチェックしてみてください。