渡辺明:四間飛車破り 急戦編

藤井九段の「四間飛車の急所」との読み比べも面白い
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評価:S
対象者:5級〜五段
発売日:2005年4月

四間飛車に対する二大作戦である急戦と居飛車穴熊の定跡を、歯に衣着せぬ発言が魅力の渡辺明竜王が解説する「四間飛車破り」の急戦編です。
同じ浅川書房からは藤井九段の名著「四間飛車の急所 Vol.2 急戦大全 上巻」と「四間飛車の急所 Vol.3 急戦大全 下巻」が先に刊行されており、初の著書としてはプレッシャーがあったと思いますが、藤井本に勝るとも劣らない渾身の一冊となっています。

勝利だけを重視するなら、居飛車穴熊がその堅さと遠さで、舟囲い急戦の上を行くと思います。実際にプロもアマも居飛車穴熊の方が採用率が随分と高くなっています。

しかし、自玉と相手玉の危険度を見極めて一手違いのぎりぎりで勝つ技術が求められる急戦策は、その分「将棋の実力」が養われます。また、近年猛威を振るっている対居飛車穴熊の「藤井システム」で、「攻めつぶされるか凌ぎきるか」という居飛車党にとっては不本意な展開を避けることが出来るという利点もあります。

続編となる「四間飛車破り 居飛車穴熊編」とあわせて、急戦と居飛車穴熊の定跡と戦い方のコツを身につけることにより、対四間飛車に対する作戦の幅を広げようというのがこのシリーズの主眼です。

藤井九段の急戦本は上・下の二巻構成だったのに対し、渡辺本は一冊にまとめているので(ただし、藤井本に掲載の鷺宮定跡はカット)、全270ページと重厚な作りとなっています。

以下の手順で先手よし

第1章 4五歩早仕掛けより:図は▲4五歩まで
以下△同銀▲同桂△同飛▲3三角成△同桂▲2四飛△6五桂▲4七歩で先手よし

第1章 4五歩早仕掛け
(1)素直に△5四歩 (2)角で取る後手の狙い (3)本筋の飛車切り (4)先に△7四歩 (5)最強の玉頭銀 (6)玉頭銀を狙う (7)角頭を狙う (8)手損戦法 (9)▲6八金型へ (10)最強の応手 (11)先手から角交換 (12)本線へ (13)銀引きはどうか (14)角で取ると

第2章 4六銀左急戦
(15)基本の手順 (16)2筋を突き捨てる (17)主流の6九金型 (18)やはり2筋を突き捨て (19)△3六歩の戦い (20)△3七歩の戦い (21)最前線へ (22)最新形とその結論 (23)準急戦 (24)▲3七銀上はどうか (25)駒組みはどうか

第3章 棒銀戦法
(26)棒銀戦法 (27)△4五銀の戦い (28)△3三桂の戦い (29)△4四歩の戦い (30)△4二飛の戦い (31)加藤流の戦い (32)最新の棒銀対策 (33)最善の駒組み (34)6五歩型 (35)最新の▲3五歩 (36)駒組みはどうか (37)先に△4二角

上記の目次のようにその内容は非常に多岐にわたっていますが、各章の最初でまず「渡辺明の結論」と題して、4枚の基本図を掲載し、端的に結論を述べ、それぞれどのテーマ(目次の1〜37)のページに移動すればよいのかをナビゲートしているので、導入部から自然と読み始めることが出来ます。また、復習の際にも目的のページへすぐに移動できるので、似たような局面ばかりが載っていても迷うことはありません。

渡辺竜王の結論は非常に歯切れがよく、例えば「第1章 4五歩早仕掛け テーマ5 最強の玉頭銀」では、『△5四銀と出られた局面は居飛車がやや勝ちにくいと思っている。(中略)プロ同士ならいい勝負かもしれないが、アマチュア同士なら間違いなく振り飛車勝ちやすい。』、また「第2章 4六銀左急戦 テーマ22 最新形とその結論」でも『プロ同士ならいい勝負だがアマチュア同士なら先手が勝ちにくい』のように、読者のアマチュアを意識して書かれています。

居飛車急戦vs振り飛車の棋書を数多く読んできて、中・終盤の局面での形勢判断が「居飛車やや指しやすい」というのは、アマチュア同士では「玉の堅さの違いで互角」ではないか、と思うことが多かったので、読者を念頭においた渡辺竜王のこの文章を非常にうれしく思いました。

同じ急戦策、手順でありながら生粋の四間飛車党である藤井九段と居飛車党である渡辺竜王では、その形勢判断が若干違うところも見受けられ、通の方はその辺を見比べてみるのも面白いでしょう。

対四間飛車の急戦をテーマにした本は多いですが、本書は解説している定跡の量と深さ、解説のわかりやすさから間違いなく名著の部類に入るでしょう。居飛車党の方は、続編「四間飛車破り 居飛車穴熊編」とあわせて是非。