深浦康市:最前線物語2

ゴキゲン中飛車に対する新丸山ワクチンなどが登場
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評価:A
対象者:5級〜六段
発売日:2006年8月

居飛車・振り飛車の最新定跡を、その誕生の背景と変遷をあわせて解説していく深浦八段(2007年、初タイトルとなる王位を獲得しました)の「最前線シリーズ」。
これが最前線だ!」「最前線物語」に続く第3作となる本書はシリーズ初となる相振り飛車の章も登場し、ますます充実した作りになっています。

アマチュアにも人気の角交換穴熊

図は「なぜ手損振り飛車か」より:後手の植山六段(中井広恵女流の旦那さん)が三浦八段に快勝したことでプロにも流行した角交換四間穴熊も掲載されています。

全227ページ、各テーマに基本図が1枚あり、続く解説では各ページ下段に図面が2枚、上段の2/3はびっしりと解説が詰まっています。テーマとなる戦形は以下の通りです。

グループ1 藤井システムと四間飛車
後手藤井システム(△3二銀型、△4三銀型)、先手藤井システム(▲4七銀型、▲1六歩型)、4五歩早仕掛け、右6四銀急戦、松尾流穴熊をめぐる攻防

グループ2 ゴキゲン中飛車
▲58金右急戦、新旧丸山ワクチン、二枚銀

グループ3 石田流と三間飛車
鈴木的升田式石田流、石田流本組みをめぐって、三間飛車相穴熊の戦い

グループ4 向かい飛車の戦い
先手向かい飛車オープン型、後手向かい飛車クローズ型

グループ5 なぜ手損振り飛車か
驚異の後手2手損振り飛車、矢倉流後手一手損四間飛車

グループ6 相振りレボリューション
矢倉vs美濃、後手穴熊の挑戦

グループ7 角換わりロマン
角換わり腰掛け銀先後同型、一手損角換わり相腰掛け銀、一手損角換わりvs棒銀・早繰り銀・▲1五歩型右玉

グループ8 横歩取り進化論
8五飛戦法vs▲5八玉・3八銀型、8五飛戦法vs▲6八玉・3八銀型、8五飛戦法vs▲58玉・3八金型、8五飛戦法vs新山崎流、相横歩取り戦法

グループ9 スペシャリストたちの矢倉
▲4六銀・3七桂型、森下システムvs雀刺し、脇システム、相掛かり引き飛車棒銀

シリーズ前2巻と同様に基本図までの解説が全くありませんので、読みこなすためには定跡にある程度精通している必要があります。その代わり、解説中の手順とその良し悪しは非常に詳しく掲載されており、深浦八段の几帳面な性格がうかがえる内容となっています。

最初の「これが最前線だ!」が出版されてから7年がたちますが、時系列に読んでいくと、一手損角換わり・四間飛車、ゴキゲン中飛車、藤井システム、8五飛戦法と非常に個性的な戦法が増えてきたことがよくわかります。

1つのテーマ図から、プロ棋士がどのような試行錯誤を経て、現在の形に辿り着いたのかは一つのドラマでもあり、普段指さない戦法でも思わず読み入ってしまいます。

このタイプの本が好きな方は、その新戦法の背景にある思想をスペシャリストのインタビューを交えて解説する勝又六段の「最新戦法の話」がオススメです。