加藤一二三:加藤流振り飛車撃破

三間飛車は全く載っていないので要注意です
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評価:C
対象者:5級〜三段
発売日:2003年9月

四間飛車(穴熊も含む)、向かい飛車、中飛車に対する居飛車急戦の定跡解説と加藤九段の自戦記で構成されているオーソドックスな振り飛車破りの本です。

タイトルに「加藤流」とあるように、▲4五歩急戦や鷺宮定跡などは掲載されておらず、定跡解説の半分以上はもちろん棒銀戦法に割かれています。

現在はほとんど見られない中飛車に対する▲3八飛戦法を掲載しているのに、三間飛車の項は1ページもありません。おそらく翌年に同じMYCOMから出版されることになった「加藤流 最強三間飛車撃破」の依頼もこの時期に受けていたのではないかと推測します。

全221ページ、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 四間飛車対棒銀(銀捨て型)
第2章 四間飛車対棒銀(△1四歩型)
第3章 四間飛車対棒銀(△4二金型)
第4章 四間飛車の穴熊
第5章 四間飛車の△4五歩型
第6章 向かい飛車対棒銀
第7章 中飛車対▲3八飛型
第8章 実戦編(対大山十五世名人ほか計6局)

加藤九段創案の有名な銀捨て新手です

第1章 四間飛車対棒銀(銀捨て型)より:図は▲1五銀まで
加藤九段が初めて指した▲1五銀、いわゆる「加藤新手」。銀をタダで捨てても、竜を作って桂馬も取れるので居飛車よしです。

棒銀の大家の加藤九段の定跡解説とあって棒銀の章(1〜3章)を期待したのですが、渡辺竜王の「四間飛車破り 急戦編」や久保八段の「最強四間飛車マニュアル 急戦編」、藤井九段の「四間飛車の急所 Vol.3 急戦大全 下巻」で紹介されている、対棒銀の有力策△6五歩〜6四角の形が全く触れられていないのが気になります。

四間飛車の対棒銀における最強の構えとして知られる△4二金・5三角・1二香・1四歩は、加藤九段も相当経験しておられるよう(絶対棒銀と来るとわかっているので決め打ちで対策される)で、比較的詳しく解説されています。率直に先手良くないと書かれているところに好感が持てます。

四間飛車穴熊に対する加藤九段の対策は▲3五歩△同歩▲4六銀△3六歩▲3五銀〜の斜め棒銀がほとんどで、僕も対鈴木八段、谷川九段ほかいくつかの棋譜のコピーを並べた覚えがあります。本書の解説もその斜め棒銀をテーマにしており、四間穴熊側に角交換を許さない▲5五歩以下の手順を詳しく掲載しています。

先手後手の違いが大きい急戦ですので、この穴熊の章では居飛車が後手の場合に、右金を△5二と上がらずに、△6一のまま上記の急戦を仕掛ける形も8ページほど紹介。

四間穴熊に対する斜め棒銀は「四間飛車道場 第10巻 急戦vs穴熊」で、本書で紹介されている「角交換を許さない▲5五歩」以外の手の定跡手順も枝葉に至るまで解説されていますので、参考にしてみてください。

後半が自戦記ですので、定跡解説の割にはちょっと深さが足りないのかなぁ、という感じです。加藤九段ファン以外は上記の渡辺本や藤井本でしっかりとした急戦策を勉強したほうがよいでしょう。2005年には類書となる「加藤の振り飛車破り決定版」も刊行されました。