藤井猛:四間飛車の急所 Vol.3 急戦大全(下)

▲4五歩早仕掛けに悩んでいる方にはバイブルとなる一冊です
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評価:S
対象者:5級〜五段
発売日:2004年10月

本書は「四間飛車の急所を、その定跡の進化を追いながら自然と身につける(一巻前書きより)」ことを目標に刊行され、居飛車党・四間飛車党を問わず好評を博している『四間飛車の急所』シリーズの第三巻です。

四間飛車の急所 Vol.1 進化の謎を解く」では四間飛車全体を俯瞰的に眺めたロードマップ、「四間飛車の急所 Vol.2 急戦大全 上巻」では基本図(居飛車急戦策▲5七銀左)から@△5四歩A△6四歩B1二香C△4三銀以下の変化(端角戦法・鷺宮定跡・斜め棒銀)、そして本巻では全項に渡り△4三銀以下の変化(斜め棒銀速攻型・▲4五歩早仕掛け戦法・棒銀)を、プロの実践例を交えて詳しく解説してあります。

229ページ、見開きに局面図画4〜5枚の全四章構成となっています。前巻と同じく、各章の最初にチャート図が一枚あり、どの手を選んだらどのテーマ図に行けばいいのか番号がつけてあります。

次に『藤井ファイル』と題して、テーマ図以下の本筋となる変化手順とその結論をさらりと解説してありますので、予習・復習が簡潔にできます。

第一章「斜め棒銀速攻型」
第二章「▲4五歩早仕掛け-▲6八金型」
第三章「▲4五歩早仕掛け-▲6九金型」
第四章「棒銀」

第一章は前巻に引き続いて「斜め棒銀」ですが、▲6八金と△1二香の交換を入れないで即仕掛けて、変化によっては一気に終盤に突入する「速攻型」が中心です。

特に△3六歩とワンクッション入れないで△4五歩と飛車角銀総交換となる変化は、結果図以降9枚も補足図をつけるほど難解な終盤戦にまで踏み込んで解説がなされています。

第二章の「▲4五歩早仕掛け」は、この戦法に頭を悩ませている四間飛車党の方が多いと思われますので、参考になるでしょう。

▲2四歩を△同歩と取り、後に@△8八角成▲同玉△4五飛で桂馬を取って次の△8四桂(△7六桂の王手金取り狙い)を目指す指し方 Aそれを避けるために▲3三角成△同桂▲8八角とする二つの変化をそれぞれ、羽生−藤井の竜王戦(2001年)・羽生−森内の竜王戦(2004年)の実戦をベースに解説してあります(▲2四歩を△同角と取る変化も当然収録されています)。

第三章も引き続き「▲4五歩早仕掛け」。前章変化の△8四桂〜△7六桂が▲6八の金にあたる事を不満と見た居飛車側が、▲6九金のまま一手早く仕掛ける変化です。

▲2四歩△同角▲4四歩△同銀▲4三歩△同飛▲2四飛と飛車角交換から、▲3二角以下振り飛車が自陣の二枚飛車で受ける形に対して▲9五歩と突く「郷田新手」、▲4五歩と来る前に振り飛車側が△5四銀と上がり、玉頭に狙いをつけ居飛車を牽制する「玉頭銀」を中心に解説しています。

この玉頭銀を扱っている棋書は少ないですが、「渡辺明:四間飛車破り 急戦編」や「杉本流四間飛車の定跡」、「振り飛車ワールド 第3巻」の千葉五段の講座でなどでも詳しく解説されていますので、これらの本を併読すれば足りないところを補えると思います。

第四章は「棒銀」です。「羽生の頭脳-第二巻」にも載ってるオーソドックスな受け(「馬を作らせる△4五銀」・「馬を作らせない△3三桂」)、△4二角&△6五歩で迎え撃つ「久保流」・居飛車側が銀損を代償に龍を作る「加藤流」・藤井九段お勧めの△5三角&△4二金&△1四歩他、70ページと全章で一番ページが割かれています。

最近の四間飛車は、対居飛車穴熊の藤井システムの影響からか早めに△4三銀と上がることが多いので、本書は即戦力としても、長く使える定番定跡書としても居飛車急戦党・四間飛車党を問わずにお勧めです。

なお、上記の「渡辺明:四間飛車破り 急戦編」と読み比べると、同じ局面でありながら、生粋の居飛車党と四間飛車党とではその見方、感覚が違うことがわかります。

次巻の「四間飛車の急所 Vol.4 最強の4一金型」をもって、このシリーズは完結となります。