加藤一二三:加藤の振り飛車破り決定版

棒銀だけでなく対振り飛車の矢倉も登場
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評価:C
対象者:5級〜四段
発売日:2005年3月

近年は『自身の集大成となるものを書き上げたい』として「加藤流 最新棒銀の極意」や「加藤流 最強三間飛車撃破」、「加藤流振り飛車撃破」など、対局だけでなく執筆活動にも全力投球している加藤九段による振り飛車破りの指南書です。

加藤九段と言えば「棒銀戦法」の代名詞ともなっていますが、本書では棒銀だけでなく、5筋位取り、対振り飛車における矢倉(森下九段の「なんでも矢倉」を参照)、大山十五世名人が得意とされた四間飛車→袖飛車への対策、藤井システムへの▲5七銀〜▲3五歩急戦、対ゴキゲン中飛車、四間穴熊など非常にバラエティに富んだ内容となっています。

全231ページの6章構成で見開きに盤面図が3〜4枚配置されています。九段の十八番となっているキリスト教に関する話は冒頭の「はしがき」のみ(笑)。目次は以下のようになっています。

第1章 対△四間飛車・5筋位取り戦法(対大山戦)
第2章 対△四間飛車・矢倉戦法(対大山戦)
第3章 対△四間飛車・棒銀戦法
(▲1五銀捨て型・▲4五歩−△4三金型・△4二金型・△5三金型・△6五歩型)
第4章 対▲四間飛車戦法
第5章 対藤井システム急戦策
第6章 対中飛車戦法(従来型の中飛車・ゴキゲン中飛車)
補章 とっておきの作戦
(対中飛車の△6四金戦法、対四間穴熊の速攻・居飛車穴熊…ほか)

久保流

対△四間飛車・棒銀戦法 攻めの△6五歩より:図は△6五歩まで
久保棋王が得意の△6五歩型。▲2四歩△同歩▲4五歩△同歩▲3三角成△同飛▲1五銀と攻めるのは、△3二銀▲2四銀△4三飛で△6四角の筋もあり先手不利。

加藤九段が有力視する手順は△6五歩に対して▲3四歩△同銀▲3五歩△4三銀▲3七銀と引いて、次の▲3六銀の好形を狙う「準急戦」の手順。本書の結論は下図の△4二金型以外は全て『棒銀の有効な攻めが続く』としています。

最強の構え

第3章 対△四間飛車・棒銀戦法 強防の△4二金より:図は△4二金まで
対四間飛車において棒銀の採用率を激減させることになり「最強の構え」と評される△4二金型の布陣。加藤九段が現在最も多く戦っている形だけあって、本書では変化手順も含めて一番力を入れて解説している章です。

図から▲3四歩△同銀▲3五歩△4三銀▲1五歩△同歩▲同香△同香▲2四歩△同歩▲1五銀とするのが『まずは最良』としている打開策。しかし、10数手後に中村八段との感想戦で指摘された△8四香という好手があり『今のところ棒銀の前に立ちはだかっている』と章末で締めくくっておられます。

最初の第1・2章はそれぞれ5筋位取りと矢倉における序盤の駒組みや仕掛けの基本を解説し、残りを同戦法で対大山十五世名人を破った対局を自戦記形式で解説しています。

ほかの章は定跡書に近い形ながらも、加藤九段が実際に新手を指した(あるいは指された)局面はその対局者と年度に触れながら、当時の感想も語っておられます。

対振り飛車の矢倉戦法、中飛車への△6四金戦法、袖飛車対策など現代将棋では滅多に見ない形をテーマにしていることについては賛否両論あると思いますが、対三間飛車を一切カットしてまでも掲載する必要があったのか疑問です。

また、最新形を含めてこれだけ幅広いテーマをまとめなければならないにも関わらず自戦記形式の解説が90ページもあるのも気になりました。

読者の多くはやはり加藤先生の棒銀の章に期待していたと思います。
確かに「加藤流振り飛車撃破」では紹介されなかった対棒銀の△6五歩型(上図1枚目:いわゆる久保流)も取り上げ、互角以上に戦える手順を披露しています。

それでも、△4二金型に関しては四間飛車の目線で書いた藤井九段の名著「四間飛車を指しこなす本 Vol.3」の方が本書では掲載されていない居飛車の有力手段を紹介しているなど、棒銀を専門に指している方には物足りない感じが否めません。

幅広いテーマを取り上げた構成の関係から棒銀の章以外は、それほど深い手順は解説されておらず、本書をもってして「振り飛車破り決定版」と言えるかどうか。
加藤九段の文体が誰にも真似できませんが、定跡書の分野でも藤井九段のように「これはこの人にしか書けない!」ような一冊を期待したいと思います。

なお、冒頭でチラッと紹介した「加藤流 最新棒銀の極意」ですが、こちらは相居飛車(相掛かり、角換わり、矢倉)における棒銀をテーマにしたものです。対振り飛車の棒銀は全く登場しませんので注意してください。