加藤一二三:加藤流 最強三間飛車撃破

コーヤン流と比較して読むと面白いかも
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:2004年6月

「加藤流振り飛車撃破」と「加藤流最新棒銀」に続く加藤一二三大先生の「振り飛車破り」シリーズ第三弾のテーマは三間飛車破りです。

同じくマイコミュから出版された好著「中田功:コーヤン流三間飛車の極意 急戦編」と同じく、定跡解説と指し方のコツの両方が解説されています。

222ページ、見開きに局面図が4枚の全6章プラス自戦記という構成です。

第1章 先手3七桂型
第2章 早仕掛け
第3章 角頭仕掛け型
第4章 後手3五歩型
第5章 先手三間飛車対三歩突き捨て
第6章 棒銀戦法
※各章末に復習として、掲載手順をチャート図にまとめています。
実戦編(対大山十五正名人が3局、中田功六段が2局、先崎八段が1局)

A図 第1章 先手3七桂型:図は▲1五桂まで

B図 第4章 後手3五歩型:図は△3五歩まで

C図 第5章 先手三間飛車対三歩突き捨て:図は△9五歩まで

本書も「コーヤン流〜」は共に三間飛車対急戦の本でありながら、基本図から早くも違いが出ています。例えば「コーヤン流〜」では、後手三間飛車に対する早仕掛けを警戒して、△8二玉に代えて△9四歩を推奨しています。これは自玉を広げておいて、終盤における逃げ道を用意しておくということだけではなく、6一の金に7二の玉でヒモもつけて離れ駒を作らないという意味があります(深い…)。

それに対して本書ではオーソドックスに△8二玉をチョイス。面白いのはオーソドックスな△8二玉を選ばれても加藤九段の見解は「後手三間に対する先手早仕掛けは危険」としていることです。

なお、この形で先手が早仕掛けを断念して▲3七桂から仕掛ける(第一章:A図)のは9筋の端歩の交換が入らないので、加藤九段の見解は「先手面白い」、対して中田六段は玉が広さと終盤で放つ△6五銀(玉頭を手厚くし、かつ相手玉にもプレッシャーを掛ける好手)で「後手やれる」としており、形の違いから見解も分かれます。
「コーヤン流」は三間飛車のスペシャリストである中田六段らしい「感覚的」な手が随所に見られたのが大きな特徴ですね。

先手3七桂型に対する△5三歩保留型や、居飛車の急戦そのものを牽制する△3五歩型(第四章:B図)、先手三間飛車対三歩突き捨て(第五章:C図)など、本書でしか触れられていない部分があるので、三間飛車党の方も両方を読み比べてみてもいいかもしれません。

実戦編のコーナーは雑誌「将棋世界」の連載自戦記で何回登場したかわからない対大山十五世名人との戦いが中心となっています。「私は〜と指した。すると大山名人は〜と突いてきた。そこで私は〜」の無限ループに加え、「この日は、▲4七金と上がるのが力強く感じられた。私の▲4七金は、対局当日頼もしく思えた。」と凄い二重強調(?)も飛び出し絶好調です。

「将棋世界」の連載でも文中におけるキリスト教の布教活動を忘れませんでしたが、今回はそのコーナーを別に用意する念の入れようで、「おお!俺たちのひふみんは顕在だぜ!」とファンの方にはたまらない内容になっています。この辺の話が好きな方は加藤九段のエッセイ「一二三の玉手箱」も面白く読めると思います。

ただ、自戦記でページ数が持っていかれているため、各章の変化手順が詳しく踏み込まれていません。また、各章末の復習用チャート図に盤面図が使われていないので、高段者を除いて実用性が落ちるというマイナス要素もあります。

なお、第5章のテーマとなっている「▲三間飛車に対する三歩突き捨て」をはじめ、▲三間飛車への居飛車急戦は青野九段の「先手三間飛車破り」で詳しく解説されています。三間飛車以外に対する加藤九段の急戦本は同じくMYCOMから「加藤流振り飛車撃破」も出版されています。