高橋道雄:最新の8五飛戦法

棋譜解説と連動した講座内容がいい感じ
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:2009年12月

その絶頂期には後手番の戦法にも関わらず、6割台という高い勝率を誇った横歩取り△8五飛戦法。同戦法の生みの親である中座七段をはじめ、丸山・野月・渡辺・山崎(敬称略)など、多くのスペシャリスト達に牽引される形で一大ブームを巻き起こしたのは記憶に新しいところです。

本書はそんな横歩取り△8五飛戦法の最新の定跡を、プロの実践例を交えつつ解説したものです。「一手損角換わり」など一部の戦法を除いては、プロとアマにおける戦法のブームはほぼ一致していますので、△8五飛戦法の採用率が下がってきた今日の状況を考えると、この戦法を解説した棋書は2009年末に出版された本書が、最後になるのではないとか推測しています。

著者は「地道流」の高橋道雄九段。高橋九段といえば、「高橋超合金矢倉」など手厚い陣形に代表される腰の重い将棋で知られていますが、意外なことに(?)△8五飛戦法の採用率はプロ棋士のなかでもかなり高く、A級カムバック&残留の原動力となったのも同戦法でした。

全222ページの3章構成で、第1・2章が定跡解説の「講座編」、第3章の「実戦編」は、一局面をクローズアップしたミニ自戦記形式となっています。盤面図は見開きに最大で6枚掲載。目次は以下の通りです。

序章 横歩取り△8五飛の主要10図
第1章 横歩取りの基礎知識
第2章 △8五飛の最新定跡
第3章 実戦編
巻末 参考棋譜 計25局分(※)
※…「将棋年鑑」や「将棋世界」掲載の「熱局セレクション」と同じく、棋譜の横に盤面図と注釈を添えた形式

同戦法を激減させた居玉速攻型

第2章 △8五飛の最新定跡 第7項 居玉速攻型より:図は▲3七桂まで
△8五飛戦法の採用率を減らすきっかけとなった「新・山崎流」と呼ばれる居玉速攻型。▲5八金〜▲3八金でも玉はあまり堅くならないので、そのまま戦おうという積極的なスタイルです

2手節約している分、後手の桂馬を活用を遅らせることができる点が大きな特徴です。以下、△7四歩▲3三角成△同桂▲3五歩△4四角(△同飛は▲4六角)が代表的な変化です。

当初は「ちょっと出版のタイミング遅かったのでは?」と、余計な心配をしたのですが、結構人気は高かったようで、やはり見ている人はしっかり見ていますね。

冒頭には「横歩取り△8五飛の主要10図」を掲載し、あわせて、それぞれの形での後手番の勝率、本書で解説しているページも言及していますので、パッと見ただけで内容が把握できるようになっています。

第1・2章の講座編は、2009年末の出版ということもあり、今となっては誰も飛び込まないものの、同戦法を指す上で知っておきたい変化から新・山崎流の変化まで、幅広くカバーしています。

プロの実践例をベースとした硬派な内容となっていますが、「淡々と変化を解説するのではなく、私なりの色をかなり出してみた」とまえがきにあるように、講座では「▲○×は〜するという意味。」「手順に桂馬を捌かせてくれたと、むしろありがたいとおもっていいくらいなのである。」「右桂が残るので本道とは言えず、目先を変える変化球的なスタンスだ。」など、随所で手の狙い筋や考え方について、わかりやすく噛み砕いて解説しています。

第3章の実戦編は、2ページでその1局の急所局面を解説するミニ自戦記が25局分掲載されています。いずれの局面も講座内容とリンクしており、どの章のどの項目を参照すればよいのかもキチンと示されています。

初手から投了までの自戦記を掲載した場合、対局数が少なすぎる or 多すぎて講座のページを圧迫 のどちらかになりますが、このスタイルだと少ないページで多くの対局を掲載できるうえ、ポイントだけを効率よく理解できます。

巻末では全25局分の棋譜を盤面図と注釈付きで掲載しているため、将棋盤を引っ張り出してバシバシ並べたい方も満足できると思います。

一般論として、同じ戦型・テーマの棋書が複数の出版社から刊行された場合、浅川書房(河出書房を含む)の本が一番の出来となるケースがほとんどです。しかし、本書は連盟の出版物ながらも、△8五飛戦法の棋書では最も優れていると思います。