清水市代の将棋トレーニング

中・終盤での考え方や寄せ方を丁寧に解説している良書
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評価:A
対象者:10級〜二段
発売日:2006年02月

本書は清水女流が講師を務めた「NHK将棋講座(2003年4月〜9月)」のテキストを加筆・修正したものです。テーマとなっているのは、序・中・終盤において指し手の指針となる「考え方」と具体的な「寄せ方(受け方)」です。

清水女流といえばケータイ世代の申し子のような顔文字連発&メルヘンチックな文章が有名ですが、天下のNHKがそれを許さなかったのか、はたまた乙女心(?)の変化なのか、本書ではかなり一般的な文章となっています。

全222ページの5章構成で、見開きに盤面図が4〜8枚配置されています。また、各節の終わりには腕試し用の詰め将棋(11〜19手詰めとやや手強い)が計24題ほど出題されています。

第1章 最終盤に強くなろう
詰み / 詰めろと必至 / 寄せ(囲い崩しの基礎) / 速度計算
第2章 駒の特性を覚えよう
歩 / 桂・香 / 金・銀 / 飛車・角 / 玉
第3章 急所の一手を考えよう
序・中盤の攻め / 序・中盤の受け / 終盤の攻め / 終盤の受け
第4章 得意戦法を身につけよう
棒銀1・2 / 中飛車1・2
第5章 将棋をのびのび楽しもう
受けの手筋 / 格言アラカルト

第1章 詰めろと必至より
初手は桂馬を打ちたくなりますが、▲1五桂は△1四銀、▲1四桂(△同歩▲1三歩△同桂▲3三角成狙い)も△3一金と受けられてしまいます。

ここでは▲3三角成が鋭い一手で、△同桂の一手に▲2四桂△同歩▲2三歩と見事に必至がかかります。この「一間竜」は頻出度が非常に高く、「送りの手筋」とワンセットで覚えておくとよいでしょう。

この第1章は寄せの基本アラカルトといった内容で、「ジャマ駒の消去」、「王手は追う手」、「一間竜」、「玉は包むように寄せろ」などの必修テーマを解説しています。

同じく第1章 寄せ(囲い崩しの基礎)より
対美濃囲いの終盤をイメージした仮想図で、▲9五歩の突き捨てに△同歩とした場面です。ここでは▲4四桂△6二金寄▲5一銀(△5三金には▲6二銀不成)、あるいは▲4三歩や▲3四角などが筋ですが、最も早い寄せは▲5三桂となります。

△5三同金は▲6二銀△同金▲7一角ですし、△5一金寄にもやはり▲6二銀で、△同金上に▲7一角△9二玉▲9三歩△同桂▲9五香で先手よしとなります。

また、▲5三桂に△7一金なら、9筋を突き捨てておいた事前工作を活かして▲9二歩が絶好打となります。以下、△同香▲9一銀△同玉▲7一竜で美濃囲いは崩壊となります。

囲い崩しの節では、美濃囲い(上図参照)・舟囲い・矢倉・居飛車穴熊・振り飛車穴熊の5つを対象に、それぞれの囲いの急所にヒットする代表的な手筋が紹介されています。

また、一方的に寄せる手筋だけでなく、「逆王手」や「詰めろ逃れの詰めろ」など、双方の玉の状況を正確に把握する高度な速度計算にも触れられているので、上級者の方も勉強になると思います。

盤面全体を使う必要のない場合は極力、部分図を使用して省スペースを図り、その分を解説や類題、応用例に回しています。また、視覚的にもわかりやすくなっています。

本書の編集協力には観戦記者としてご活躍されている小暮克洋さんが携わっているためか、この章の構成とテーマ図のチョイスは、同氏の著書「寄せの棋本戦術 詰め・必死・手筋のトレーニング」と非常によく似ています。

続く第2章は、駒の特性を利用した基本手筋の解説です。金と銀がそれぞれ斜め後と真後ろに戻れない弱点を突いて、「銀の頭か金の斜め」に歩を叩く手筋(矢倉なら3四の地点ですね)や、香車による田楽刺し、控えの桂馬、自陣飛車、玉の早逃げ、中合いによる詰み逃れなどを実戦図をもとに見ていきます。

第3章では、序・中・終盤における実戦図をもとに、何をどう考えて次の一手を指せばよいのか、読みの力を鍛えることをテーマにしています。僕が参考になった部分を盤面図と一緒に掲載してみました。

図は先手の右四間飛車からの仕掛けを警戒して、後手が早めに△3二金と上がったところです。初志貫徹とばかりに、▲3六歩とするのは、以下△4一飛▲3七桂△3三角▲1六歩△5四歩と急戦策を封じ込めにこられてしまい、△3二金の顔を立ててしまいます。

ここでの清水女流の解説は「先手としては後手があらかじめ備えているところから攻めるのは効率が悪く、得策とはいえません。(中略)正解は▲6六歩。△3二金を相手にせず、逆モーションで左辺を厚くするのが好発想で、以下は△3三角▲6五歩△5四歩▲6八銀△5二銀▲6七銀上という展開で、先手は十分な態勢をつくれます。」と、ポイントとなる局面での考え方が非常にわかりやすく説明されています。

採り上げられている盤面図はどれも定跡からの変化図っぽいものですが、上記の太字部分はどんな将棋にも共通する「普遍的な考え方」ですので、初〜上級者までどなたにも参考になると思います。

全章を通じて、指し手の背景にある考え方は、「位を取ったら位の確保、位を取られたら位の奪還」などの格言やキーワードに置き換えて太字で示されていますので、頭に入りやすいのが特徴です。

また、各節の終わりには「市代のワンモアステップ」と題したコーナーが用意されており、それまで見てきた各テーマのポイントを簡単な箇条書きにして、復習用にまとめてあります。

定跡以外のほぼ全ての要素を一冊に詰め込んだかなり欲張りな一冊ですが、それぞれの章の内容はしっかりしていて読み応えがあります。ただし、「得意戦法を身につけよう!」と題して棒銀・中飛車をテーマにした第4章が非常に中途半端で、その分を他の章にまわしてほしかったです。この点は本書を読んだほとんどの方が同じ意見なのではないでしょうか。

最後まで読みこなすには中〜上級レベルの棋力が必要だと思いますが、前半の基本手筋のページは初級者の方なら是非覚えてもらいたいテーマばかりですので、対象棋力は10級〜としました。基本的な手筋や考え方などを系統立てて勉強したことのない方には、オススメできる1冊です。

清水女流の著書は、本書の他に「囲いのエッセンス」があります。また、「NHK将棋講座」の内容を単行本化したものでは、「阿部隆の大局観 良い手悪い手普通の手」と「谷川浩司の本筋を見極める」の2冊が、本書と比較的近いテーマとなっていますので、そちらのページも参考にしてみてください。