谷川浩司の本筋を見極める

序・中・終盤の考え方を体系的に勉強できます
この本の詳細をAmazonで見る

評価:A
対象者:10級〜三段
発売日:2007年2月

谷川九段が講師を務め、アシスタントの島井女流とのコスプレ(医者とナースという設定)もネット上で話題を呼んだ「NHK将棋講座(2006年4月〜9月)」の内容を単行本化したものです。

二人とも結構ご満悦の様子(笑)

テーマはズバリ「本筋」です。序盤での駒組み、仕掛けの是非、受け方、終盤の寄せなど、序・中・終盤で求められる「正しい考え方」を初心者から有段者まで参考になるように解説しています。

全223ページの3部構成で、見開きに盤面図が3枚配置されています。

序盤編
戦型は4手で予測しよう / 玉の囲い方を覚えよう / 矢倉の考え方…ほか
中盤編
位の働き / 仕掛けの時期 / 攻めの考え方/ 受けの考え方…ほか
終盤編
速度争いの法則 / 即詰みで勝つ / 必至を覚える / 終盤の法則…ほか

中盤編 位の働きより:図は△8三銀まで
▲7七角△7二飛▲8八玉と漫然と玉を囲っていると、△7四歩▲同歩△同銀▲8六歩△7五歩▲8七銀と後手に7筋の位を奪還され、何のために位を取ったのかわからなくなります。

「位は確保」が大切で、上図では▲6五歩△同歩▲同銀△6四歩▲7六銀と6筋の歩を交換し、△7二飛に▲6六銀と厚みを築くのがポイントです。これなら、以下△7四歩▲同歩△同銀と攻められても、▲7五歩で7筋の位をキープすることができます。

序盤編では「▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩(矢倉模様)」、「▲2六歩△3四歩▲7六歩△5四歩(ゴキゲン中飛車模様)」、「▲7六歩△3四歩▲6六歩△6二銀(右四間飛車含み)」のように、戦型を予測するために最初の4手が17パターン用意されています。

戦型が決まったら今度は玉の囲い方をレクチャー。ポイントとしては「玉と飛車は反対側に」、「居飛車の飛車先は金で受ける」、「角道に気をつける」、「相手の駒組を見る」などが、失敗図とともに挙げられています。
例えば、穴熊が堅いからといって、端に戦力を集中させている相手の駒組みを無視して潜った場合には痛い目にあいますよ、というわけです。

中盤編では「対振り飛車の攻めの目標は飛車先を破ること」、「飛車のいない筋を攻めよ」、「持久戦は遠く、堅く」などを居飛車と振り飛車に分けて解説しています。
なかでも、「二枚換えは計算外のプラスあり」と題して、『駒をたくさん持つということは、それだけ持ち駒を活用する可能性が広がるということで、この場合は二枚換えの分だけ得をしている感じです。』という部分が、個人的には目から鱗でした。

また、駒交換での損得をわかりやすくするために、駒の点数評価表(ex:飛車10点、角8点、銀5点、歩1点、玉はpriceless by マスターカード)が掲載されています。
歩を一枚損したら、自分に−1点でなおかつ相手にプラス1点ですから、2点の差がつくわけです。初心者の方は、一度目を通して大体の目安を知っておくとよいでしょう。

同様の試みとして、盤上で働いている駒の枚数を比べて形勢判断の物差しとする「カウント法」という新しい手法も登場。

終盤編では「谷川流寄せの法則 基礎編」でも登場した、『持ち駒に何があれば後手玉を詰むか』形式の詰め将棋が出題されています。また、詰め将棋に登場する手筋を応用した必死の掛け方、『有利なときはできるだけ選択肢の少ない、つまり単純な局面に持っていく。逆に、不利なときはできるだけ選択肢の多い、複雑な局面に持っていく(谷川九段の著書で頻出のフレーズ)』をはじめとする「方針の立て方」など、理論と実戦の2つの方向から終盤の本筋に迫っていきます。

全編が「考え方」という抽象的なテーマなので、文章にするのは難しかったと思いますが、谷川九段の解説はわかりやすく、また、見開きで1つのミニ・テーマが完結するので、途中で挫折することもないでしょう。

駒別の特性を解説した「谷川浩司:将棋新理論」は、理論が先行してやや具体例が少ない感もありましたが、本書ではその心配もなく、序・中・終盤での考え方を体系的に勉強できます。

「NHK将棋講座」を書籍化したものでは「阿部隆の大局観 良い手悪い手普通の手」が、本書と比較的近いテーマになっていますので、中級者〜有段者の方はそちらも参考にしてみてください。