加藤一二三:一二三の玉手箱

80歳現役も夢ではないと思います
この本の詳細をAmazonで見る

評価:-
対象者:将棋ファン全て
発売日:2007年2月

70歳を前に老いてますます盛んな我らが”ひふみん”こと、加藤一二三九段(←何段かわからないというギャグはなし)のエッセイと名局解説集です。

エッセーの内容が将棋だけにおさまらないのは、ファンの方なら既にご承知の通りで、特に後半はキリスト教と聖書にまつわる話のほうが多いです(笑)

『かつて私が王将を獲得したとき、いつも祈ってくださる神父がいて、直後に棋王戦に立ち向かうことを聞いた森山神父は「えっまたですか」と驚きながらほほえまれた。本当に心を込めて祈ってくださったことを知った。心血を注ぎ祈りが込められているので、私も将棋を大切にするゆえんである。』

名局解説のコーナーより対四間飛車への急戦

加藤一二三の名局より ▲加藤九段vs△横山四段:図は▲4六銀まで
ここで横山四段は△3二金。加藤九段の長い棋士生活で初めて指された手だそうですが、加藤九段が約35年前に書いた「振り飛車破り」にはこの手が書かれてあり「こう指されたら困るだろうな」と当時は思っていたとのこと。本書ではこのあたりのエピソードと、以下の実戦を解説。

また、「うな重」「板チョコ」「空咳」などの数々の伝説を本人に直接聞いてみる特集コーナーを巻頭に持ってきているところから、出版社はもちろん加藤九段本人も、読者の期待しているところを十分に理解しているようです。

対局場となる旅館での滝を止めさせた話では「記憶は2回ぐらいはありまして〜(中略)後2、3回はあったのでしょうけど、記憶にはないです。」、対局室に電気ストーブを持ち込んだところ、相手に盤外戦術と思われて「顔にストーブの風が当たるので、やめてください」と真剣に言われて、自分のほうだけにストーブを当てた(スイッチを切らないところが凄い)話、うな重の話題では「うなぎはそれだけで食べるよりも、うな重としてご飯と一緒に食べると栄養的にも非常によいと放送していました。それでわが意を得たりということになり、今でも昼にうな重、夜もうな重といった感じで、自信を持って食べています。」と期待に違わぬ内容です。

本書には書かれていませんが、中原誠・十六世名人とのタイトル戦で、部屋のすみに飾ってあった「達磨(だるま)」が気になって対局に集中できなくなったところ、それに気づいた十六世名人が休憩中にだるまを片付けてくれたというエピソードがあります。これなんかは笑いもありつつ、十六世名人の気遣いなどが伝わるいいエピソードだと思うので、この辺も載せてほしかったですね。

メインとなる「加藤一二三の名局」という過去の名局を棋譜解説と当時のエピソードを振り返るページでは、解説手順のわりには盤面図が少ない感じがしますし、手順は載っているのに盤面図が一つもない場面もあります。
一応、巻末には対局棋譜が掲載されていますが、簡単な注釈などはなく、ただ棋譜が掲載されているだけなので、少し不親切だと思いました。

純粋に加藤九段の文章を読みたい方には、九段の将棋にかける情熱が伝わってくる一冊となっていますが、将棋の局面の解説などを期待する方は、ある程度割り切ったほうがよいでしょう。冒頭のコーナーで掴みがばっちりだっただけに、少しもったいないですね。