所司和晴:将棋定跡最先端 居飛車編

東大将棋ブックスシリーズの補完的な一冊
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評価:B
対象者:初段〜五段
発売日:2005年12月

四間飛車道場などの「東大将棋ブックス」の著者として知られる定跡伝道師(すげーネーミングだ)・所司七段による最新定跡の解説書です。

「東大将棋ブックス(矢倉道場と横歩取り道場が該当)」の発売後にプロの実戦で現れた新しい指し方や、角換わりや相掛かりにおける流行型についてみていきます。

全238ページの4章構成、盤面図は見開きに4枚となっています。目次は以下の通りです。

第1章 矢倉
▲4六銀・3七桂・3八飛 ▲3五歩の変化・▲5五歩の変化・△8五歩早突き型

第2章 横歩取り
△8五飛対▲4八銀・3六歩 △5一金の変化・△7四歩の変化
相横歩取り△2七角の変化・△8二角の変化・△6四歩の変化

第3章 角換わり 早繰り銀の変化、相腰掛け銀の変化、先手棒銀の変化

第4章 相掛かり
△3三角の変化、△1四歩の変化

最新の矢倉流行形

第1章 矢倉より:図は▲6五歩まで
▲6五歩は後述の狙いのほか、△6四歩の争点化を誘っている意味もあり、以下▲6四同歩△同銀は角筋が止まる(△同角は▲6六銀か5五歩で先手十分)ので、▲3五歩△同歩▲1五歩△同歩▲2五桂と仕掛けて先手有利となります。

矢倉の章では▲4六銀・3七桂戦法で▲2五桂や▲5七角に代えて▲6五歩と突く、現在の主流となっている指し方について解説されています。
▲6五歩の狙いは、▲2五桂の後の△4五歩に対して、▲同銀△1九角成▲5七角と進めて次の▲6六角(王手)を狙う、また将来▲6四歩と突き捨てて△同角(△同歩は角道が塞がる)と取らせることにより、3五の地点で銀交換を行った先手の飛車が▲6五飛と回れて、角を質駒に出来るというメリットがあります。

この形は、NHK将棋トーナメントで中井広恵女流二冠が採用して、佐藤(秀)六段を破っていますので居飛車党でない方もご存知だと思います。矢倉定跡本では唯一(2008年2月現在)、「最新矢倉戦法 徹底研究▲3七銀戦法」がこの形を解説していますので、矢倉の党の方は参考にしてみてくださいね。

横歩取り△8五飛戦法では、▲4八銀・3六歩・3七桂の形から居玉のまま戦ういわゆる新・山崎流を、そして相掛かりでは飛車先交換の後、▲2六飛ではなく▲2八飛と深くひいて棒銀を狙う順がテーマとなっています。

居飛車編と振り飛車編に分かれているために、掲載手順に不足はありませんが、手順の枝葉がある局面で「▲〜△〜で難解な局面だ」「▲〜△〜で1局の将棋といえる」との説明の後に、その結果図が示されていないページが結構あります。
プロの実戦に現れる最新定跡の枝葉の部分ですので、対象となる読者の棋力からすれば、頭で十分に追えますが、この書籍サイズなら盤面図をも一枚増やしてもよかったかなと思います。

基本定跡をマスターした高段者の方や新聞の将棋欄を毎日欠かさず熟読している勉強熱心な方には参考になると思いますが、同じく最新戦法を解説した深浦王位の名著「最前線物語2」のような読み物的な要素はありません。また、本書の1年後にほぼ同じ構成の「最新戦法必勝ガイド これが若手プロの常識だ」が出ていますので、賞味期限は短いと思われます。

本書の続編として「将棋定跡最先端 振り飛車編」が出ていますので、居飛車対振り飛車の最新定跡を知りたい方はそちらのページも参考にしてみてください。