藤倉勇樹:よくわかる中飛車

中〜上級者向け
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評価:B
対象者:8級〜初段
発売日:2010年12月

一昔前の中飛車のイメージと言えば、@相手玉のいる筋に一番強力な攻め駒(飛車)を持ってくるため、初心者の頃は勝率が高いものの、5筋は左右から駒を密集させやすいため、"囲い"や"受け"の基本が出来てくる脱初心者レベルになると、玉を2〜3筋に移動され、金銀でガッチリ受けられて、単純に中央突破を目指すだけでは勝てなくなる、A三間、四間飛車に比べると居飛車穴熊を阻止あるいは牽制する手段に乏しいうえ、左金の活用が難しい…など、飛車を5筋に振るメリットを見出しにくい状況が久しく続いていました。

その状況を打破したのが、ゴキゲン中飛車やワンパク中飛車に代表される角道オープン型中飛車の登場です。振り飛車側から積極的に戦端を切って、局面のリードを狙える同戦法は、「振り飛車=カウンター狙いの受け身の戦法」という概念を180度変え、今や一時の"流行"から振り飛車の"スタンダード"としてすっかり定着した感があります。

本書は、そんな角道オープン型中飛車の定跡、攻め方や受け方のポイントを解説したものです。タイトルや表紙にある噴出し「どうやってせめるの?角頭の受けは大丈夫?」だけ見ると、なんだか初心者を想定したかのような感じを受けますが、殆どのページが中〜上級者向けの内容となっています。

全222ページの3章構成で、見開きに盤面図を最大で6枚(基本は4枚)配置。各章の終わりには復習用に「次の一手」形式の問題が4〜10問ほど用意されています。目次は以下の通りです。

第1章 先手中飛車
対棒銀・△6四銀型・△6三銀型・位取り拒否・居飛車穴熊…ほか
第2章 後手ゴキゲン中飛車
対▲4七銀型・▲7八金型・超急戦▲5八金右・超急戦拒否△6二玉・丸山ワクチン…ほか
第3章 相振り飛車
対三間飛車・向かい飛車・中飛車から左穴熊
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2筋ノーガードでも▲2四歩は危険
第2章 後手ゴキゲン中飛車 より:図は△5ニ飛まで
後手が2筋を受けないで堂々と△5ニ飛としたところ。当然、第一感は▲2四歩ですが、以下△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角▲2八飛(▲2一飛成は△8八角成)に△2六歩が狙いの一手です。

次に△2七歩成▲同飛に△8八角成がありますので、先手は▲7七桂(▲7七銀は△2ニ飛▲3八銀△7七角成から猛攻を喰らいます)と受けますが、△2ニ飛から玉を囲えば、先手は2筋の負担が大きいため、振り飛車優勢となります。

この変化に飛び込むには勇気がいります
第2章 後手ゴキゲン中飛車 より:図は▲5五桂まで
付け焼刃の知識で飛び込むと痛い目にあうこと必至な対超急戦▲5八金右の戦い。▲3三角は次に▲6三桂成〜▲9九角成の馬の素抜きを狙っています。

図以下、△4四銀▲同角成△同歩▲6五香△7ニ銀▲8ニ銀が定跡化された手順で、最近では▲渡辺竜王−△久保二冠の棋王戦(2011年2月)でも登場。

藤倉四段の前著「相振り飛車基本のキ」では、「飛車を振る筋と囲いの相性」をわかりやすく相関図にまとめていましたが、読者に好評だったようで(P12参照)、本書でも対急戦・▲7八金型・丸山ワクチン・穴熊・相振り飛車における中飛車の戦型別イメージ(長所・短所・気をつけるべき点)を表にまとめています。

全編に共通している点として、すぐに本筋の解説に進まずに、「○×図では▲〜も考えられるところですが〜」、「○□図では△〜が一見すると有力に思えますが〜」と、読者が思い浮かぶであろう筋を先回りして、参考図を交えて解説しているのがGood。

また、「〜にて先手(後手)優勢(不利)」となる理由づけや、結果図以降の具体的な指し手も、手短であるもののキチンと触れている点も評価できます。一部、アマの将棋を題材にした局面図があるものの、そのほかは定跡化されている局面がテーマとなっていますので、ココセもありません。

本編では、これから解説する手順がどの棋力を対象としているのかを★(町道場で4〜5級)から★★★★(1級〜初段)の4段階で示すなどの工夫がなされています。
ただ、この難易度は表記されている以上に差があり、本書の前書きにあるように「本当に(町道場レベルで)中級者を対象にしているのか?」と疑問があります。

本書のセールスポイントとして、「難しすぎる変化は載せていない」ことが挙げられているのですが、上級〜有段者レベルの変化にまで踏み込んで解説しているページも少なくなく(特に第2章)、途中図はあるものの1ページ内で進行する手数も10手前後あるなど、ほかの中飛車本に比べて易しいという印象は受けませんでした。

じゃあ、上級者あるいは有段者向けの本かと言うとそうでもなく、2章を除けば、細かい変化に踏み込んでいない部分もあるため、既に同戦法を指している方はこれ一冊では物足りなさを感じるでしょう。このどっちつかずの感じが本書を強くプッシュできない大きな理由です。

そういう点から見ると、角道オープン型中飛車に興味のあるけど、まだ"本格的に指したことのない"かつ"上級者"の方が、同戦法の重要変化をサラっと把握するために読む…といった感じで、読み手の対象が中途半端に限定されてしまいます。

相振り飛車を含めて主要な戦型をコンパクトにまとめてあり、読みやすいのですが、中飛車をテーマにした棋書には、パワー中飛車で攻めつぶす本遠山流中飛車ガイドなど、充実した内容のものが既に数冊出ているため、そちらをお持ちの方であれば、あらためて本書を読む必要はないと思います。