鈴木大介:パワー中飛車で攻めつぶす本

これ一冊で基本は完璧です
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評価:A
対象者:10級〜四段
発売日:2009年12月

トップ棋士でありながらも、出版社を問わずハイペースで棋書を出しまくっている鈴木八段。もはや「将棋界きっての流行作家(?)」の地位を完全に確立したと言っても過言ではないでしょう。

本書はそんな鈴木八段が、初手▲5六歩から角道を開けたまま中飛車にする「パワー中飛車」の定跡・指し方のコツをわかりやすく解説したもので、専門誌「将棋世界」で連載(2008年8月〜2009年10月号)されていた人気講座「大ちゃんの時代はパワー中飛車」がベースになっています。

浅川書房からの出版は「角交換振り飛車 基礎編&応用編」に続いて三冊目となりますが、前二冊とは構成が根本的に異なっています。藤井九段の「四間飛車を指しこなす本」や「相振り飛車を指しこなす本」などをお持ちの方は「あぁ、例のアレね」と納得いただけるかと思いますが、具体的には、初手から「次の一手」形式の問題&解説で読み進めていき、最後のページに辿り着いたら、本をひっくり返して、最初のページに向かって再び読み進めるという独特のスタイルになっています。

全244ページの8章構成です。盤面図は見開きに4枚の配置が基本ですが、解答・解説ページで補足が必要な場合は増量されています。目次は以下の通りです。

第1章 駒組みの基本と3つの狙い筋
第2章 意外な筋と角のさばき
第3章 左美濃を攻めつぶす
第4章 穴熊を攻めつぶす
第5章 角交換型へ
第6章 後手、一歩交換を逆用
第7章 後手、一歩交換を阻止
第8章 5筋位取り中飛車 VS 居飛車穴熊

飛車の打ち込みに強い陣形を活かす手順

第1章 駒組みの基本と3つの狙い筋より:図は△3三銀まで
ここでは▲8六歩と突くのが筋です。以下△同歩なら▲8三歩△同飛▲6一角で決まります。したがって△7四歩くらいですが、▲8五飛と飛車交換を迫れば、陣形の差で先手断然優勢となります。

浮き飛車から石田流を目指す

第8章 5筋位取り中飛車 VS 居飛車穴熊より:図は△5一銀まで
相手の駒が偏った瞬間をとらえて▲5六飛と浮き飛車に構えるのが好手です。以下@△4二銀右には▲6六飛△6二飛▲6五飛で次の▲8五飛が受かりません。A△8四飛には▲7五歩〜7六飛の石田流の構えを目指します。

本書の良かった点と悪かった点を簡単にまとめてみました。

初手から解説がスタートしているだけでなく、駒組みのポイント&代表的な狙い筋を解説している章を特別に用意している。

「▲5五歩△同歩▲同角」と「▲5五歩△同歩▲同飛」の使い分け、「▲7八金〜6六銀〜7七桂のワンセット」などの重要なポイントは繰り返し出題されている。

解説ページでは「後手の8筋交換はむしろチャンスと考えるくらいでちょうどいい」など、パワー中飛車特有の考え方などは太字で強調されている。

「基本図」で複数の候補手が存在した場合、一つの候補手の解説の後で「再掲 基本図」として再び局面図が掲載されるので、前のページに戻る必要が無い。

仕掛けの成否を分けるポイントだけでなく、仕掛け以降も比較的長い手数を追っていくので、パワー中飛車での具体的な勝ち方も理解できる。

成功手順だけでなく、気持ちよく捌けそうでも上手く行かない局面、ハマリ形では居飛車の視点から問題が出題されている。

各章の終わりでは「この章のまとめ」と題して、それまでに学んだ重要項目を箇条書きにして掲載しているので、復習の際に重宝する。

▲5六歩&角道オープンの振り飛車には「向かい飛車」もあるが、最近なぜこの形が見られなくなったのか(=居飛車に有力手が登場した)も解説してある。

△6四銀で5筋交換を拒否された場合(第7章)は手詰まりになりやすいが、▲1八香から穴熊にして打開する手順が解説されている。

× 第7章まではいずれも居飛車の△5四歩型。ネット将棋で最近の実戦を見る限り頻出度が高いのは△5四歩と突かずに、中飛車側に▲5五歩と位を取らせる指し方。この形を解説しているのは第8章だけなので、ややボリューム不足。

× 冒頭で触れた「将棋世界」の連載講座では掲載されていた相振り飛車の形は全く登場しない(追記:2010年7月に発売された姉妹書、相振り中飛車で攻めつぶす本で解説しています)。

自分の頭で考えて答えを出す→解説を読んでポイントを理解する→次の局面(問題)に進む…という繰り返しですので、一手一手の理解度が自然と深まるのが本書が採用しているスタイルの特徴です。

中飛車ブームにやや乗り遅れて(?)これからこの戦法を指そうと思っている方はもちろん、バリバリ指しこなしている有段者の方にもポイントを再整理するという意味で本書は文句なしにオススメです。

S評価でもよかったのですが、5筋位取り中飛車を解説している章が第8章だけというのがちょっと気になりましたので、A評価としました。このあたりは先日レビューした「遠山流中飛車持久戦ガイド」とリンクする内容ですので、中級〜有段者の方は参考にしてみてください。