藤倉勇樹:相振り飛車基本のキ

全編が講座なので読み応え十分
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評価:A
対象者:5級〜三段
発売日:2007年9月

本のタイトルだけ見ると10級くらいの方を対象とした相振り入門書のような感じがしますが、藤井九段の「相振り飛車を指しこなす本」シリーズのように、一手ごとに指し手を解説するのではなく、相振り飛車における指し方とそのポイントをまとめた中級者向けの内容となっています。

最初に、相振りを指す上で指針ともなる「飛車を振る筋と囲いの相性」を表にして掲載している(穴熊は形により評価が異なるため不掲載)のが画期的です。
例えば美濃囲いでは「対向かい飛車:評価△−玉頭に手が突くと早いので要注意」「対三間飛車:評価○−相手の攻めから遠く横からの攻めにも強い」「対四間飛車:評価◎−相手の攻めから遠く横からの攻めにも強い」「対中飛車:評価○−相手の攻めから遠くせめられにくい」といった具合です。

全222ページの全4章構成、見開きに局面図が4枚ほど掲載されています。目次は以下の通りです。

第1章 金無双・美濃囲い編
第2章 矢倉・穴熊囲い編
第3章 その他の戦型編(対ワンパク中飛車、石田流三間、相振り牽制作戦など)
第4章 ポイントチェック(金無双の基本手筋、美濃囲いの基礎・急所、矢倉の基礎知識、穴熊の基本手筋)

後手三間飛車穴熊vs美濃囲い

矢倉・穴熊囲い編より 後手三間vs美濃の戦い:図は▲9六歩まで
この何気ない▲9六歩が実は狙いを秘めた一手で、△9四歩ならば▲7七銀が新しい指し方。狙いは▲8六銀から▲9五歩△同歩▲同銀の棒銀です。美濃が端を受けなかければ、▲9五歩と突きこして、▲6六角・7七桂・9七香・9八飛の端攻めへの理想形を目指します。

金無双における戦いは、比較的新しい相振り飛車の歴史の中では古いほうにはいるので、他の本との差別化のためか、仕掛け以降の手順、終盤での決め方までが掲載されています。また、3筋交換の浮き飛車に対して、▲3七銀と上がって飛車をいじめながらモリモリと上部に厚みを築いていく手順などもあわせて紹介。

第3章のその他の戦型では、△1四歩から△1三角と早めに上がり、先手の相振り飛車を牽制してきた場合の対抗手▲6五歩以下、居飛車で駒組みを進める上でのポイントや、ワンパク中飛車(角道を止めない攻める中飛車)への対策がまとめられています。

ただし、このワンパク中飛車への対策は阪口四段の著書「ナニワ流ワンパク中飛車(本書と同じMYCOM刊)」が先に出版されて、藤倉四段もそれを読んでいる(そう書いてある)のに、「ナニワ流〜」で掲載されている▲5五歩〜▲5七銀〜▲5六銀の形が全く紹介されていないのが少し不満です。藤倉四段による本書では、ワンパク中飛車で浮き飛車にした場合における対策しか解説されていないのですが、阪口四段の著書にはそもそも浮き飛車にする手順は全く掲載されていないのですから…

最終章では、金無双で左辺から攻められたときに壁銀の▲2八銀を▲3九銀とバックして玉の逃げ道を作る基本手筋、美濃囲いを目指して▲3八銀と上がった瞬間に△3六歩▲同歩△5五角とのぞかれた場合の受けの手順など、相振り飛車を指す上で知っておかなければならない筋がわかりやすくまとめられています。

相振りの様々なエッセンスを1冊に詰め込むのはどうなんだろうかと思いましたが、MYCOMの本にありがちな、「後半は全部自戦記」ではないので、何度も読むに耐えうる濃い内容になっています。著者のネームバリューとタイトルのせいで、スルーした方もいるかもしれませんが、なかなかの好著です。

また、図で解説したような比較的新しい狙い筋を知りたい方は、千葉五段・藤倉四段・中村四段による「新・振り飛車党宣言!(3) 進化する相振り飛車」を参考にするとよいでしょう。