遠山雄亮:遠山流中飛車持久戦ガイド

居飛車党も参考になる一冊
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評価:B
対象者:5級〜四段
発売日:2009年11月

日本将棋連盟のネット事業委員を務めたり、自身の公式ブログ「ファニースペース」でも積極的な情報発信を行っている遠山雄亮四段。無料動画「将棋ニュースプラス」内の「ご主人様、王手です。」では講師を務めていましたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

本書は生粋の振り飛車党である遠山四段が、近年アマ・プロ問わずに大流行している「ゴキゲン中飛車」の持久戦における戦い方にテーマを絞って解説したものです。

全222ページの6章構成で、見開きに盤面図が4枚配置。合間に著者によるちょっとしたコラムが4本ほど掲載されています。目次は以下の通りです。

序章 基本図までと本書の概要
第1章 ▲中飛車・5筋&角交換編
第2章 ▲中飛車・5筋交換編
第3章 ▲中飛車・5筋位取り編
第4章 △中飛車・5筋位取り編
第5章 △中飛車・角交換編
第6章 自戦記(対小林宏・佐々木・塚田の計3局)

これは先手絶好調の手順

第2章 ▲中飛車・5筋交換編より:図は▲4五歩まで
こういった形では△3二金が居飛車の常套手段となりますが、この局面では以下▲5五歩△同歩▲同銀△4五歩▲5四歩△4二銀と後手陣を凹ませてから、▲3六歩〜3七桂〜4五桂を狙って先手絶好調です。

居飛車の有力手段

第4章 △中飛車・5筋位取り編より:図は△8二銀まで
▲2四歩△同歩▲3五歩△同歩▲3四歩△5一角▲6五歩…が、将来の名人候補と期待されている関西の大型新人・豊島四段が考えた新しい仕掛けです。

「角道は止めなければならない」という呪縛から開放された振り飛車は、ゴキゲン中飛車を筆頭格として、居飛車穴熊への有効性が高く評価されてきました。
しかし最近は、居飛車側も持久戦における対策が進んできています。本書はその変遷を簡潔にまとめながら、章を進めていくという構成になっています。具体的な流れを簡潔に示すと以下のようになります。

@.▲中飛車で角交換をして、5筋の歩も交換できると攻め筋が豊富に生じるため、後手が居飛車穴熊を目指すのは危険。

A.そこで居飛車側は序盤の駒組みで△4四歩と角交換を拒否してから、居飛車穴熊を目指す→▲ゴキゲン中飛車には5筋を交換してから、A.▲4五歩の急戦策 B.高美濃に組む C.相穴熊 の3つの策があり、いずれも作戦勝ちが望める。

B.居飛車側は5筋の位を取らせる代償として局面を落ち着かせて、居飛車穴熊を目指す→▲ゴキゲン中飛車は5筋の位を取り、高美濃から理想形を組み上げることができるが、動きにくいというデメリットがある→▲3六歩〜4六銀から▲3八飛の袖飛車にして主導権を握る。

C.上記のBで有力な袖飛車も居飛車が先手番(=ゴキゲン中飛車が後手)だと、一手の違いで居飛車の右銀が受けに利くうえ、相穴熊にすると居飛車に有力な仕掛けがある→△ゴキゲン中飛車側は袖飛車はあきらめ、相穴熊から△5四飛→3四飛の浮き飛車で作戦勝ちを狙う…といった感じになっています。

いずれの章も指し手の解説だけでなく、その形で目指すべく方針にも触れられています。また、章末で「第○章のまとめ」として4枚の図面を使って、ポイントとなる部分をわかりやすくまとめている点も良心的です。

なお、第5章の△中飛車・角交換編では、中飛車側の5筋交換を牽制するいわゆる「佐藤流(▲9六歩〜7八銀)」への対策として、一時期有力視されていた「遠山流の△7二金」が解説されています。これは遠山四段いわく『ページを割いて解説している本が無いので、自分が書くしかないと思い取り上げた』とのことです(笑)

ネット対局を観戦する限り、一時期よく見られた「中盤をすっ飛ばして即終盤」といった超急戦は鳴りを潜めて、本書がテーマとしている持久戦がほとんどです。
しかし、@基本形までの解説は最低限に留めている、A同戦法を指すうえでのコツなどは触れられていない…などの理由で、初めてゴキゲン中飛車を勉強する方には不向きだと思います。

最近ならば「将棋世界」で連載(2008年8月〜2009年10月号)されていた鈴木八段の人気講座「大ちゃんの時代はパワー中飛車」、あるいは同じく鈴木八段の著書「パワー中飛車で攻めつぶす本」などで基本を固めたうえで、本書を読むとより理解が深まり、ゴキゲン力(?)の底上げにもなるでしょう。

この戦法をテーマにした棋書は多く出ていますが、居飛車の視点で公平にゴキゲン中飛車対策を掲載しているのものはほとんどありませんでした。そんななか、上図の2枚目で紹介した「豊島新手」をはじめ、本書では居飛車党が参考になる手順も多く紹介されていますので、ゴキゲン中飛車に苦しめられている方にもオススメです。

2010年7月には本書の続編として、「遠山流中飛車急戦ガイド」が刊行されました。セットで読めば定跡はほぼ完璧でしょう。