谷川流寄せの法則 応用編

前巻で学んだ寄せの基本を応用していきます
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評価:A
対象者:2級〜五段
発売日:2004年12月

前巻「谷川流寄せの法則 基礎編」では、囲い崩しを中心に寄せの基本を見ていきましたが、本書はその応用編となっていて、より実戦に即した形で寄せの技術を習得していきます。

全215ページの3章構成で、見開きに盤面図4枚配置されています。巻末には出題されている谷川九段の実戦譜を全25局、簡単な注釈を付けて掲載されています。

第1章 格言に学ぶ終盤術
・玉は下段に落とせ ・玉は包むように寄せよ
・終盤は駒の損得より速度 ・金なし将棋に受け手なし
・玉の早逃げ八手の得あり ・端玉には端歩
・両王手受けにくし ・邪魔駒は消せ
・谷川のアドバイス(13問)
第2章 実戦に学ぶ終盤の心得 次の一手問題(13問)
第3章 最終盤は読みで勝て 次の一手問題(12問)

即詰みと必至の二つの勝ち方がありますがわかりましたか?

第1章 格言に学ぶ終盤の心得より:図は△5八とまで
この局面では二つの勝ち方があります。1つは▲7一角△9二玉▲8四桂△同歩▲8二金△9三玉▲7二金△8三玉▲8二角成△7四玉▲8三馬(この捨て駒が発見できるかがポイント)△同玉▲8一竜△7四玉▲7五銀△6五玉▲6六銀△7六玉▲8八桂△8五玉▲7七桂△7四玉▲7三金△同玉▲6五桂以下、竜引きで即詰みです。

もう一つの勝ち方は、▲7一角△9二玉▲8二金△9三玉▲7二金△8四玉▲7五銀△8五玉▲7七玉と強く迫って、必至となります。

この自玉も攻め駒にして、必至や詰めろをかける筋は覚えておきたいパターンで、以前レビューした「谷川浩司:光速の寄せ Vol.5 寄せ手筋総集編」や「日浦市郎:Zの法則−ゼったい詰まない終盤の奥義」の第4章-Zの鉄人編でも紹介されていますので、お持ちの方はご確認を。

上図の局面の「谷川のアドバイス」は、『プロでも勝ち方が一通りしかないときはあまり間違えないのだが、二通りの手段でどちらでも勝てそうなときは、読みの集中力が分散したり、より安全な手順を選びたいと言う意識が働いたりして、結局悪いほうを選んでしまうことがある。』とのこと。

このレベルの問題になると、途中の変化図がないと高段者以外は大変かもしれませんが、本書は一問につき3ページ(つまり盤面図が6枚)用意されていますので、混乱することはないでしょう。

第2章では谷川九段の実戦から2択による次の一手を考えていくのですが、2択のうち正解手以外の手も悪手でないことが多いので、高段者以外の方は正解を目指すよりも、自分がどのくらいまで手を読んでその手を選んだのか、対する谷川九段の解説はどうなのかを読み比べることが大切だと思います。

第3章はも同じく谷川九段の実戦から出題。選択肢なしで最終盤の局面で勝ちを決める一手を考えますが、トッププロ同士の対局ですので、非常に難解です。

寄せの本の巻末や章末に用意されている実戦問題というのは、その本で学んだ手筋や寄せのパターンを組み合わせるとそれほど悩まなくても正解の道筋が見えてくるようになっているのですが、本書は手加減なしです(笑)

前巻に比べると、一気にレベルが上がった感がありますが、丁寧に読んでいけば着実に棋力は上がるはずですので、焦らずに頑張りましょう。

最後に、第2章で紹介されていた「光速の寄せ」の代表局とも言える局面図を掲載しておきます。かなり有名な一手ですので、ご存知の方も多いでしょう。

一度でいいからこんな手を実戦で指してみたいですね。

第9期竜王戦第2局より ▲谷川△羽生(便宜上先後逆です):図は△4一飛まで
ここで▲4七飛として△同飛成に▲3四歩△3七竜▲3三桂と攻め合うのは、▲3三桂馬の瞬間が「やや甘い」と谷川九段。正解はいきなり▲3三桂!です。以下、△同桂なら▲4七飛△同飛成▲3四歩で先手良しとなります。

▲3三桂の犠打によって、▲3四歩の取り込みがさらに駒に当たっているところがポイントです。いやはや恐るべし谷川光速流ですね。

谷川九段の終盤をさらに勉強したいという方は、実戦における膨大な読み筋と考え方を披露した有段者向けの棋書「光速の終盤術」が参考になると思います。