谷川浩司:光速の終盤術

手筋をまとめた問題集ではないので注意
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評価:B
対象者:有段者
発売日:1988年12月

2011年2月に復刊されました!(文庫復刻版のリンクはコチラです。)
「将棋マガジン」誌で連載されていた谷川名人(当時)の人気コーナー「光速の周辺」を加筆修正したもので、1.直線と曲線 2.終盤の岐路 3.勝つための終盤術 4.逆転の終盤術をテーマに、ご自身の実戦から寄せの極意を解説していきます。

全285ページの4章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。また、巻末には各章でテーマとなっている実戦の全棋譜(25局:解説はなし)を掲載。

第1章 直線と曲線
終盤のテーマ / 水面下の激戦 / 相手玉との距離感 / 入玉の心得 / 直線の中の盲点 / 後からの悪手
第2章 終盤の岐路
方針の岐れ道 / 流れを掴む / 中盤に押し戻す / 発想の転換 / 長考の主役
第3章 勝つための終盤術
条件を定める / 終盤の基礎体力 / あきらめは禁物 / 読みがすべて / 必至よりも即詰み / 争点の見極め / 終盤の視野
第4章 逆転の終盤術
終盤の座標 / 不利な終盤の心得 / 心理的な危機感 / 駒損での考え方 / 駒損の代償 / 驚くべき順 / 相手玉に近づく

第26期王位戦より ▲谷川△福崎:図は△6八金まで
後手の福崎八段が△6八金と打ってきたところです。この手に代えて△5八とが普通の手ですが、これは詰めろではなく、次に△6八金と打っても▲8八玉と逃げられてしまいます。そこでと金を寄る前に金を捨てて、次の当たりを強くしておこうという着眼で放たれたのが△6八金です。

谷川九段の読みは△6八金▲8八玉△7九金(詰めろではない)に▲6二銀。△同金上は▲8三桂打△同歩▲同桂左不成以下詰み、△同金寄も▲8三桂打△同歩▲8二銀以下詰みで勝ちというもの。

しかし、▲6二銀には△9四歩と成香をはずす手がありました。以下▲7一銀不成の一手。これを△同金はやはり▲8三桂打から詰みとなるのですが、△9五歩と根元の桂を取られると詰まなくなってしまいます。そこで谷川九段は▲8八玉〜6二銀の筋をあきらめ、次の手を考えました…いや〜難しいですね。

タイトルだけ見ると、後年発売された谷川九段の人気シリーズ「光速の寄せ」、「谷川流寄せの法則」と同様に、終盤の手筋や囲い崩しに関する問題集と思う方もおられるかもしれませんが、内容は「終盤のみをテーマにした自戦記」といった趣が強く、「読みの技法」や「谷川浩司の戦いの絶対感覚」、「将棋世界」誌で連載されていた宮田敦史五段の終盤講座に近いと言ってもいいでしょう。

上図の局面のように難易度が非常に高く、実戦に現れた手順は10数手の寄せでも、谷川九段の読みにある変化手順を10ページくらいを使って詳しく解説していきます。見開きに盤面が4枚あるとはいえ、有段者でも本書で勉強する際には盤・駒が必須だと思います。

難点は、谷川九段が後手の場合も盤面図はそのままなので、寄せの感じが掴みにくいのと、「有利なときは局面を単純化、逆に不利なときは局面を複雑化する」と言った谷川九段の考え方やアドバイスが文中でサラリと述べられて終ってしまっていること。太字にしたり、章末で「まとめ」などコーナーでその辺を整理してあったら、復習の際に便利だったのですが…。

絶版になっているものの、手に入れて損はない一冊だと思います。ただし、ネットオークションなどを見ていると1万円を超えていることが少なくないようで、これはちょっと足元を見すぎでその辺につられないようにしましょう(笑)。前述の「谷川浩司の絶対感覚」など、現在の棋書で十分にカバーできる内容ですよ。