田丸昇:小駒の必勝テクニック

「次の一手」問題ではなく講座形式で進行します
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評価:A
対象者:10級〜二段
発売日:1997年6月

元A級棋士の田丸昇八段が著した「金・銀・桂・香」の手筋集です。専門誌「将棋世界 1997年3月号」のインタビューで『桂か香のような人生を目指しているんだ』とおっしゃっていた田丸さんらしいテーマの本です。タイトルに「必勝」という胡散臭い言葉がありますが、中身は本格的です。

田丸八段と言えば、棋王戦の挑戦者決定戦で負けた後、勝者の大山十五世名人が感想戦の最中にも関わらず、関係者とタイトル戦の日程などを話し合ったエピソードが有名。敗者にコンプレックスを強く植え付けようとする番外戦術だというのが大方の見方です(怖)。意外と知られていないのが、谷川女流の元旦那さんということ。

全222ページの4章構成で、右ページに大きな問題図が1枚、左ページに参考図や類題図が3枚配置されています。

第1章 香車編(10テーマ)
第2章 桂馬編(11テーマ)
第3章 銀将編(13テーマ)
第4章 金将編(10テーマ)
田丸流実戦次の一手

第2章 桂馬編より:図は△5四銀まで
ここで▲3五歩の突き捨ては△同歩ならば、▲3四桂で角銀両取りとなりますが、△同歩に代えて△3六桂の返し技が飛んできます。

この局面では▲2六桂と控えて桂馬を打つのが好手で、次に▲3四桂の両取りを狙います。この手が受けにくく、△3三銀では▲2五桂ともう一枚の桂馬を活用されてしまいます。また、△4四角と先に当たりを避ける手も、▲3四桂△3三銀▲2二歩と攻めが続きます。

直接桂馬を打つのではなく、次の好手を見た「控えの桂」を覚えておくと、攻めの幅がグッと広がります。ご存じなかった方は、これを機会に頭の隅に入れておいてください。将来の○勝はゲットしたも同然です(笑)

解説はまず局面図の状況を簡単に説明。その後、「ここで▲〜は逆に△〜とされてしまう」と一見よさそうだが実は駄目な手を説明してから、本題に入ります。

解説はわかりやすく、問題図が掲載されている右ページ下段〜左ページの半分と計1ページ分あります。さらに同じ手筋を使った類題の盤面図と解説も掲載されているところが非常に良いです。

いかにも「作った」感じのテーマ図ではないので、不自然さはありません。また、章末には復習用の「次の一手」問題が用意され、解説もなされていますので、ボリューム感としても問題ありません。

ただ、ほとんどの棋書が、解説とは少し離れた場所に「▲〜△〜▲〜」のように正解手順を単独で掲載しているのに対し、本書では解説の中、しかも2段落目あたりに「文章」として紛れ込んでいるので、復習の際にややストレスがたまります。

本書のスタイルが好きな方なら、「歩の玉手箱」、「玉金銀の徹底活用術」なども参考になると思います。駒別手筋の本でも、同じMYCOMから近年出版された「すぐに使える将棋の手筋 上巻」、「すぐに使える将棋の手筋 下巻」は構成に難があるので全くオススメできません。