戸辺誠:楽しく勝つ!! 力戦振り飛車

新婚パワー(?)で絶好調の著者
この本の詳細をAmazonで見る

評価:B
対象者:10級〜1級
発売日:2008年8月

2009年度の将棋大賞(参照:「将棋世界」2010年6月号)では、新人王戦優勝の広瀬六段、勝率・勝数が共に1位の豊島五段らのライバルを抑えて、見事「新人賞」に輝いた若手振り飛車党の旗手・戸辺六段。最近は王位リーグで羽生三冠から勝ち星を挙げたことも記憶に新しいところです。

本書はそんな戸辺六段が「ゴキゲン中飛車」「石田流」「先手中飛車」―の3戦法の駒組の進め方や狙い筋を講座編と自戦記の二本立てで解説したものです。

タイトルは「力戦振り飛車」となっており、表紙&帯にもテーマとなっている具体的な戦法名は記載されていませんので、中身がわかりにくかったかもしれませんね。

全231ページの3章構成で、自戦記の前には予習として各戦法の捌きに関する「次の一手」形式の問題が出題されています。また著者による短いコラムも2本ほど掲載。目次は以下の通りです。

第1章 気分爽快!! ゴキゲン中飛車
基本定跡(対 ▲4八銀型・▲5八金右型・丸山ワクチン・▲4七銀型)
実戦編(対 川上猛六段・田村康介六段・大平武洋五段・泉正樹七段)

第2章 理想を実現!! 最新の石田流
基本定跡(対 角交換型・棒金・穴熊・△6四歩型持久戦)
実戦編(対 沼春雄六段・長岡裕也四段・大内延介九段・伊奈祐介六段)

第3章 中央突破!! 先手中飛車
基本定跡(対 持久戦&角交換型)
実戦編(対 松本佳介五段・勝浦修九段)

居飛車の金の動きに呼応します

第2章 理想を実現!! 最新の石田流 対棒金 より:図は△7二金まで
ここから▲1六歩△1四歩▲9六歩と進め、居飛車が△8三金と棒金の態度を鮮明にした瞬間、▲7八飛(いわゆる久保新手)として目標にされそうな飛車を下げ、△5四歩▲5六歩△8四金に▲6七金と「居飛車の金の動きに呼応して振り飛車も金で対抗」するのが眼目の一手。

以下△7四歩▲同歩△同金には▲7五歩〜7六金から、左銀を▲6八銀〜5七銀と活用すれば自然に作戦勝ちが望めます。なお、上記の△8四金のところで単に△7四歩とするのは▲6五歩からの捌きをみて先手よし。この辺りの変化は「石田流の極意」や「島ノート 振り飛車編」が詳しいのでお持ちの方はご確認ください。

この形は振り飛車が作戦勝ちです

第3章 中央突破!! 先手中飛車より:図は△2二玉まで
以下はこの戦法での代表的な狙い筋で、図のような局面になれば既に振り飛車よし。すなわち、▲4五歩△同歩▲3三角成△同桂▲5五歩で先手の攻めで後手は支えきれません。

▲5五歩に対して@△同歩は▲同銀△5四歩に▲4四歩、本書で紹介しているA△3二金には▲5四歩△同金(△同銀は▲5五歩で銀がタダ)に▲6五銀という洒落た手があります。

近年のマイコミの棋書の中では対象棋力はやや低めに設定されており、細かい変化は一切掲載せずに、戦法の駒組みと狙い筋を中心に仕掛け前後までの手順を読み進めていきます。戸辺六段は奨励会時代から鈴木八段を大変尊敬しているとのことですが、偶然でしょうけど一昔前の鈴木八段の本と似た感じの作りですね。

ただし、わかりやすい反面、それぞれの形に割かれているページ数が少ないのが気になります。例えば、目次欄を再確認していただきますと、第1章ではゴキゲン中飛車を4つの形に分類しているのがわかると思いますが、ページ数はそれぞれ4〜5ページしかありません。

2枚目の盤面図は石田流 VS 棒金をテーマにしたものですが、△7二金の局面では▲7七桂として、△8三金には▲8五桂と跳ねて歩をパックンする手順もあります。本書では「桂損する変化があるので気が進まない(P109より)」とあるだけで、具体的な手順はカットされています。

まあ、第2章のタイトルが「最新」の石田流なので、この変化はカットしても差し支えないかもしれませんが、第1・3章でも重要と思われる変化も省いてあります。

一方、先日紹介した「佐藤康光の将棋」シリーズと同様に自戦記は各章ごとに複数用意され、かつ講座編のページ数よりも自戦記のページ数が多くなっています。どちらを重視するかというバランスの問題ですが、個人的にはこのスタイルはあんまり好きじゃないですね。

したがって、テーマとなっている3戦法の「流れ」とか「醍醐味」を掴む為のイントロダクションとして読むには適していると思いますが、この1冊だけで指しこなそうとするのはやや無理筋かもしれません。

レビューの順番は逆になってしまいましたが、戸辺六段は本書の1年後に「戸辺流相振りなんでも三間飛車」を書いています。そちらの方は、講座を中心にして「戸辺流穴熊」「ダイレクト向かい飛車」など、相振り飛車を指すうえで強力な武器となる戦法をレクチャーしている好著となっていますので、振り飛車党の方には本書よりもそちらがオススメです。