児玉孝一:必殺!カニカニ銀―究極の二枚銀戦法

居玉で相手矢倉を攻めつぶします
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評価:A
対象者:10級〜二段
発売日:1992年2月

第30回「将棋大賞」において升田幸三賞を受賞した「カニカニ銀戦法」を、創案者であり、唯一(笑)の使いである児玉孝一六段が解説した定跡書、のようなものです。

「カニカニ銀」とは対矢倉における二枚銀戦法のことで、下の図のように居玉のまま飛角銀(×2)桂で攻めつぶすという超攻撃的なスタイルが特徴です。2枚の銀の進出していく様子がカニのはさみのように見えることからこの名前がつきました。

「玉の囲いは金銀三枚」「玉飛の接近は避けよ」などの格言の真逆を突き進んでいますが、流石「升田幸三賞」を受賞した一流戦法だけあり、その攻撃を受け止めるのは容易ではありません(僕も受け方忘れました)。攻めが好きな我々アマチュアにはぴったりな戦法と言えます。

全222ページの3章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

1章 定跡、のようなもの カニカニ銀の駒組みから仕掛けまで
第2章 実戦、次の一手 序盤から終盤までハイライトシーンを10問
第3章 カニカニ銀の、実戦 快勝、辛勝、逆転、惜敗の熱闘譜

飛角銀桂の攻めは強烈です

1章 定跡、のようなものより:図は▲5五歩まで
後手が先手からの攻めを警戒して金銀4枚と角で対抗した局面です。ここで△同歩は▲6五桂と跳ねるのが好手で、以下△6四銀▲5五銀右△同銀▲同銀となり、先手優勢です。銀交換の後でもまだ中央に攻めの銀が残っている点がポイントです。

では△5五歩に代えて、△6四歩と角筋と桂跳ねを止めるのはどうでしょうか? 今度は▲5四歩と取り込み、以下△同銀▲5五銀右△5三銀(△同銀は▲同銀でお手伝い)▲5四銀△同銀▲6四角となり、ここで△5三銀とはじくのは▲同角成△同金に▲6五銀で決まります(△同銀は▲5三飛車成)。

この戦法の優秀な点はその攻撃力だけでなく、後手の構えによっては、5筋以外にも3筋や7筋などからも仕掛けることが出来るという点です。ここが狙い筋が限られている一介の奇襲戦法とは大きく異なるところです。

本書では、先手の狙い筋を都合のいいように紹介することはなく、後手の対応(玉、角、左金の位置の違いなど)も一通り掲載して、それに対する対策までキチンと解説されています。

また、この戦型のプロの棋譜はまずお目にかかることはないので、最終章の児玉六段による自戦記(計7局)は是非並べておきましょう。大差負けもありますが…(汗)

決定的な対策が出現して消えた戦法ではないので、玉の薄さをカバーできる(あるいは指し慣れている)方は今でも十分に使える戦法だと思います。

カニカニ銀を解説した棋書は本書と「奇襲虎の巻」、「なんでも中飛車」、雑誌「将棋世界」の付録しかないので、大変貴重です。既に絶版になっていますが、古本屋などで運良く生存を確認できれば、一度手にとってみてください。(ネットオークションは足元見すぎ!僕が見たときは定価の5倍とかしてました。)