イメージと読みの将棋観 Vol.2

好評シリーズの第2弾
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評価:A
対象者:将棋ファン全般(5級以上あれば全編楽しめます)
発売日:2010年5月

ここ数年で選択肢がグッと増えた序盤、新手・仕掛けの成否を巡る中盤、大山−升田戦をはじめとする名棋士の息詰まる終盤などを題材に、羽生・渡辺・谷川・佐藤・森内・藤井のトップ棋士6人が、深い読みと独自の大局観を披露した「イメージと読みの将棋観」の第2弾。

月刊誌「将棋世界」の同名講座(2008年8〜11月号、および2010年1〜6月号)から厳選したテーマに、本書のために新たに加えたテーマを加えた計44テーマが掲載されています。

基本的な内容は前巻と同様ですが、@羽生−谷川の対談が無い分だけ掲載テーマが多い、Aページ間を何度も行き来しなくて済むように、【再掲テーマ○×図】という盤面図が加わった、Bフォントが濃くなり見やすくなった(←印刷の関係かもしれないので自信なし)などの、細かい変更点もあります。

渡辺竜王の秘策でした
第2章 中盤編 テーマ2「渡辺新手のその後」より:図は△3三銀まで
初代永世竜王を賭けた第21期竜王戦第七局(▲羽生−△渡辺)で登場した△3三銀の"渡辺新手"。「5筋の歩を交換した上に先手の2筋の歩は交換させないという指し方で、随分ずうずうしい。先手を持ったらカチンとくるんですよ。」とは谷川九段のコメント。以下、▲6五歩〜5七銀の盛り上がりや▲5六金が有力な候補です。

序・中盤編では、読みと大局観を披露した後に具体的な数字として「先手の勝率イメージ」という言葉が登場します。この局面は先手の勝率イメージ50〜52%とのことですが、平成22年3月末までの時点で21局指され、5勝16敗と大きく負け越しています。今後の対策は如何に?

鬼手で攻めをつなぎます
第3章 終盤編 テーマ10「升田幸三、鬼の攻め」より:図は▲6七同銀まで
▲木村義雄十四世名人と△升田幸三九段の一戦より。パッと見て思いつく△8七金は▲同金△同歩成▲同玉△8六歩▲7八玉で、後手の攻めは切れ模様です。

升田九段がこの局面で指した手は△6五桂です。以下、▲同馬と飛車のラインに馬を誘き寄せてから、△8七金▲同金△同歩成▲同玉△9七角成(!)▲同桂△6五飛▲6六歩△6八角からの猛攻で押し切りました。

レビューするにも前巻と重複するところが多いので書くことに困る(これを手抜きという)のですが、前巻に比べると序盤での漠然としたテーマが減った一方、矢倉中飛車・雁木・5筋位取りの各戦法がどうして指されないのか、といった「消えた戦法の謎」的なテーマも複数登場しており、読み物としてではなく、実戦的な要素も強くなっています。以下に本書の中で印象に残った点を棋士別にまとめてみました。

羽生二冠
「欲しいのはどっち? 誰よりも優れている序盤知識 or 勝ちになったら絶対に逃さない終盤力」というテーマで、「それは終盤力ですよ(森内・谷川・渡辺)」・「魔法の薬はいらない(佐藤)」に対して、「ふふふ、まぁ序盤ですね」とノータイムで回答。
苦労するのは序盤>終盤との理由だそうですが、"勝ちになったら絶対に逃さない終盤力"は既にあるとの裏返しにも思えないこともないですね。痺れます。

森内九段
中・終盤をテーマにした第2・3章における形勢判断のポイント、候補手、読み筋の解説量が一番多い。著者である鈴木宏彦氏のコラムによると、ポイントを几帳面にメモにまとめてから回答しているとのこと。

個人的には、「この盤面をナナメに切ると、7四・6三・5二・4一、3二・2三のラインが凄く弱いんですよ。だから、先手は馬でそのラインをカバーされる前に、弱点を突くのがいい(P159)」と、ラインを使った形成判断が印象的でした。

渡辺竜王
テーマ図を前に熟考するというよりも、直感的に本筋以外の手を切り捨てて、急所をズバリと探り当てています。大山−升田の将棋でも納得できない点は、そのままストレートに自分の考えを述べており、それだけ自分の読みと大局観に自信がある証拠なのでしょう。

大山−升田戦を「糸谷五段の将棋ですか? 糸谷流右玉の失敗図ですね。(P190)」とか、「分かったぞ!△6六歩でどうだ!→(違うとの指摘を受ける)→ハハハ。じゃ、待っただ。(P251ほか、待ったが多い)」などのコメントを面白い。

藤井九段
解答陣で唯一の振り飛車党だけあって、他の5人との感覚の相違がハッキリと現われるテーマがチラホラと。「相手玉に詰めが見えた。自玉は安全。しかも1手必至もある。残り一分の秒読みでも詰ましにいきますか?」という幕間テーマでは、羽生・谷川両氏が「詰ましにいく」と答えていますが、藤井九段は「残り一分なら、詰ましにいく馬鹿はいません(P71)」は本書のハイライトとも言えます(笑)。

ただし、△8五飛戦法をテーマにした局面では「これは私には答えようのない局面ですね(P124)」、本職の四間穴熊のテーマでは「これは専門分野だからノーコメントです(P100)」との趣旨のコメントをしているのが、少し気になりました。

現代将棋を代表する6人の読み比べを十分に堪能できますので、前巻を面白く読めた方にとっては本書も期待を裏切らない出来です。「将棋世界」での短期連載は2010年6月号をもって一旦終了となりました。再開するときには、久保・深浦の両タイトルホルダーも参加して欲しいと思うのですが、これって贅沢すぎでしょうか?