勝又清和:消えた戦法の謎 あの流行形はどこに!?

勝又五段の取材力のなせる名著です
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評価:A
対象者:5級〜四段
発売日:2003年5月

塚田泰明九段が矢倉戦後手番で連採した△6二飛戦法、攻防にバランスの取れた構えで一世を風靡した矢倉森下システム、対四間飛車に高勝率を誇った左美濃 etc・・・「ちょっと前までバンバン指されていたけど最近見ないなぁ。どうしたんだろ?」という疑問にわかりやすく答えようというのが本書です。

なお本書は、1995年12月に同出版社から刊行された同タイトルの復刊版となっています(第五章のみ追加)。

243ページ、見開きに局面図が4枚の全五章構成。各戦法ごとに、出現(発案)に至る背景・代表局・相手側の対策・なぜ消えたのか?を、時には発案者のミニインタビューを交えつつ詳しく解説する、というスタイルになっています。

<米長流急戦矢倉より>

第一章 矢倉編
スズメ刺し ▲2九飛戦法 森下システム 米長流急戦矢倉 中原流急戦矢倉 △6二飛戦法 5手目▲7七銀

第二章 振り飛車編
左美濃 ツノ銀中飛車 風車 後手△5二飛戦法 升田式石田流 阪田流向かい飛車 玉頭位取り 角頭歩突き戦法

第三章 角換わり編
早繰り銀 角換わり棒銀 筋違い角戦法

第四章 相掛かり編
横歩取り 塚田スペシャル 中原流相掛かり たこ金戦法

第五章 消えた戦法その後
消えた理由としては、
@塚田スペシャルの様に「決定的な一手」の出現によって戦法そのものが潰れてしまったもの
A後手番で主導権は握れるが王様の囲いが薄い分、相手に強く構えられると勝ちにくい(米長・中原流矢倉他)
B潰れはしないものの、局面をまとめにくい(ツノ銀中飛車・坂田流向かい飛車・たこ金戦法他)
などが挙げれられていますが、「隙あらば金銀四枚で固めて、攻めは飛車角桂で軽く」という現代将棋の考え方(最近の例ではミレニアム・松尾流穴熊)も大きく影響していると思います。

「消えた」といっても上記で完全に消え去ったのは、塚田スペシャル・中原流急戦矢倉・角頭突き戦法・中原流▲5六飛相掛かりくらいで、他の戦法は一部のプロ間で相変わらず指されていますし(最近では▲渡辺-△森内の竜王戦第一局(2004.10)で米長流急戦矢倉が採用)、本書の刊行後に新工夫で蘇った戦法もあります。

我々アマチュア間で人気の高い戦法が多いので、彼我の『急所』を知っておく上で本書は大いに参考になると思いますし、二十年くらい前〜現代将棋に至るまでの変化を俯瞰的に目で追える、という読み物としての一面もありますので、自分では指さない戦法の項目でも愉しみながら学ぶことができます。

ただ、各戦法とも途中図(駒組後)からの解説になっていますので、ある程度の基礎知識がある方でないと少ししんどいかもしれません。続編を期待したい好書です。

追記:続編ではありませんが、△8五飛戦法などの最新戦法が生まれた背景とその進化を解説(本書の逆バージョン)した「勝又清和:最新戦法の話」が2007年に出版されました。本書以上の出来となっていますので、参考にしてみてください。