豊川孝弘:パワーアップ戦法塾

順位戦B級2組への昇級おめでとうございます
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評価:B
対象者:5級〜二段
発売日:2004年3月

筋肉ムキムキ系棋士として丸山九段と双璧を誇る(?)豊川六段が講師を務めた「NHK将棋講座(1999年10月〜翌年3月)」の内容を、加筆・修正したものです。

テーマとなっているのは、自分から積極的に動いて主導権を握れる25の戦法(居飛車・振り飛車、B級・奇襲戦法)の解説です。

豊川六段といえば、なんといっても2004年6月に放送されたNHK将棋トーナメントでの二歩が有名ですが、連盟の控え室で上半身裸になって、同じく筋肉ムキムキ系の大野八一雄六段と筋肉の見せ合いをしていたら(凄い光景 笑)、何も知らない奨励会員が入室してきて、妙な勘違いをされそうになったという逸話もあります。

NHK将棋トーナメントより ▲豊川△田村
△3七桂成にビシッと▲2九歩! 千葉女流「あっ〜〜〜!」、解説・塚田八段「打っちゃったよ〜!!」の悲鳴も記憶に新しいですね。

…で、本書の構成ですが、全222ページの4章から成っており、見開きに盤面図が4枚配置されています。また章末には、豊川六段のコラムと詰め将棋が掲載されています。

1章 奇想天外おもしろ戦法
対美濃・9筋集中砲火 / 対矢倉一直線棒銀 / 超急戦居飛穴つぶし…ほか
2章 マイペース痛快戦法
角頭歩突き戦法 / 振袖飛車 / 右四間飛車矢倉崩し / ヒラメ戦法…ほか
3章 大まじめ本格戦法
鳥刺し / 地下鉄飛車 / 右玉 / 雁木 / かまいたち / 富沢キック(ポンポン桂)
4章 ロマン追求個性派戦法
向かい飛車・居飛穴破り / 升田式石田流 / ゴキゲン中飛車 / 立石流…ほか

3章 大まじめ本格戦法 かまいたちより:図は▲5六飛まで
奨励会出身のアマ強豪・鈴木英春氏が考案した対振り飛車作戦で、玉を囲ってから5筋に位を取って飛車を中央に転回します。

この後、左銀を▲6八銀〜5七銀〜6六銀、▲7七角の好形を目指します。こうなれば振り飛車側は進展性がなく、先手作戦成功です。

上記の目次のように、プロの公式戦でも現れる本格的な戦法、アマチュアに人気のB級戦法、奇襲戦法がバランスよくチョイスされています。

奇襲戦法といっても、相手の読みをはずすことだけを唯一の狙いとしたような単純なものではなく、定跡形からの一変化であったり、漫然と駒組を進める相手陣形の不備をついたりと、上級者相手でも通用しそうなものがほとんどです。

なお、奇襲戦法をテーマとした第1章にある「対美濃・9筋集中砲火」というのは島八段の名著「島ノート 振り飛車編」のなかで、高田流端棒銀として解説されている(P474)ものと同じ戦法です。ほかにも第3章の「鳥刺し」と「かまいたち」などの戦法が同著と重複しています。

各章の冒頭には、テーマとなっている戦法のクライマックスとも言える局面図を掲載しており、その後、初手から解説を進めていきます。一本道で変化を追うだけでなく、有力候補種がほかに場合は、「○図からの指し手1」、「○図からの指し手2」のように枝分かれの部分もキチンと見ていきます。

解説の最後には「エッセンス」と題して、その戦法を指しこなす上でのコツと注意点を箇条書きにしてまとめています。後手番専用の戦法は、見やすいように盤面図を逆さまにして掲載するなど構成もわかりやすいです。

豊川六段の文章も、随所にいい意味での「脱力感」があり、ヒラメ戦法を解説したページでは「ヒラメが最後にカレイ(華麗)に決めました」、富沢キックのページでは「天国の富沢先生、どうぞ見てください。天まで届け、富沢キーック!」といった具合です。

ただし、これはほかの類書にも言えることなのですが、受ける側での対策が掲載されていないのが難点です。

他の本で勉強した対策を挙げるなら、第3章の「かまいたち」には、四間飛車側が左側の銀(3一銀)を動かさないことが大切です。まず美濃囲いを急ぎ、▲6五銀には△3二飛、▲5八飛に△4二銀と上がって5三の地点を補強すれば、形を崩さすに自然に受かります。後は△3五歩から石田流に組み、飛車の横利きも利用すればド作戦勝ちを望めます。

四間飛車で左の銀を早々に△3二銀とするのは、この「かまいたち」があるので、相手が▲2六歩として▲5八飛と回りにくくなってから、銀を上がるのが細かい工夫ですね。

この辺りは、以前レビューした「定跡外伝 Part.2 将棋の裏ワザ伝授します」のP28、また対地下鉄飛車は「鈴木大介の振り飛車自由自在」のP108や「スーパー穴熊 完結編」のP78、対右四間飛車矢倉崩しは「矢倉急戦道場 棒銀&右四間」のP158などを参考にすると勉強になると思いますので、お持ちの方はご確認ください。

個人的に相当使える、あるいは相手に回すと手強いのは立石流と鳥刺しの2つですかね。とくに鳥刺しは前述の「島ノート」にも、決定的な対策がないと書かれているだけに苦労しそう…。