中村亮介の本格四間飛車

△7二飛急戦を解説している棋書は本書だけです
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評価:B
対象者:5級〜五段
発売日:2010年5月

ここ数年のゴキゲン中飛車や石田流の台頭により、影が薄くなってきた感がある四間飛車。特に角道オープン型で駒組みを進めて、振り飛車側から積極的に動いていくというスタイルが定着してからは、角道を止めて戦うオーソドックスな四間飛車の採用率はプロ・アマ問わず、かなり低下しています。

しかし、飛車を振る場所、角道オープン型・クローズド型に関係なく、振り飛車で戦ううえで欠かせない捌きのエッセンスがこの「王道の四間飛車」にギッシリ詰まっていることに変わりはなく、今後も広く指され続けることは間違いないでしょう。

本書はそんな「角道を止めて戦う四間飛車」、なかでも居飛車△7二飛急戦と天敵・居飛車穴熊にスポットを当てて解説したものです。著者は「新・振り飛車党宣言」などで共著はあるものの、単独での著書は初めてとなる中村亮介五段です。

中村五段と言えば、現在で落ち着いたイメージがあります(お笑い芸人のなすび氏やオリエンタルラジオの中田氏に似てる?)が、デビュー当初は金髪&パーマ&チョビ髭という橋本七段と向こうを張るファッションで話題になりました。

また、ノーマルな四間飛車で居飛車穴熊を捻じ伏せる腕力は奨励会時代から定評があり、三段リーグ在籍時に出版された「島ノート 振り飛車編」でも「〜以下は相手が誰であろうとも腕力と経験で圧倒したはずだ(P360より)」と紹介されていますし、女流の中村桃子初段のお兄さんとしても有名ですね。

本書の構成ですが、全222ページの4章から成っており、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 四間飛車 対 △7二飛型急戦の攻防
第2章 四間飛車 対 △3二金型持久戦(居飛車穴熊)の攻防
第3章 四間飛車 対 △3二金―△7二飛型の攻防
第4章 自戦記(対橋本七段・森内九段・及川四段の計三局)

鷺宮定跡とは「似て非なる」仕掛けです

第1章 対 △7二飛型急戦の攻防より:図は△7二飛まで
△7二飛型急戦は四間飛車の動きに合わせて速攻・遅攻の両方をチョイスできる仕掛けで、プロ棋士では阿久津七段や西尾五段が得意としています。
一見すると「鷺宮定跡」のように見えますが、「似て非なる」仕掛けで、特に後手番で有力な急戦策として注目されています。

△7二飛に対して▲4六歩は△7五歩▲同歩△6四銀以下、先手芳しくありません。したがって、▲7八飛と受けますが、そこで一転して△6四歩するのが眼目の一手。次の△6五歩と△7五歩の2つの攻めを狙う作戦です。

先手・後手共に目一杯頑張った形です
対 △3二金型持久戦(居飛車穴熊)の攻防より:図は▲6四歩まで
▲藤井システムに対して、居飛車が▲2五桂の仕掛けを封じる△2四歩から△1二香として、▲2六歩〜2五歩〜2四歩の合間を縫って穴熊に潜った形です。
後手番での藤井システムは「やや無理」として、本家の藤井九段も指していない現在、先手番でのこの仕掛けが最新かつ有力な戦い方とされています。

図は△2三歩と穴熊を完成させた手に対して、▲6四歩と戦いの火蓋を切ったところ。以下△同歩▲3五歩△同角に▲4八金上が定跡で、先に▲3五歩としてから▲6四歩と突き捨てるのは手順前後で先手不利となります。

第1章でテーマとなっている△7二飛型急戦は後手番における有力な選択肢として5年くらい前から指されるようになっていますが、この仕掛けを詳しく解説したのは「近代将棋」誌上で連載されていた「長岡四段が斬る!最新振り飛車の考察」だけで、棋書となって登場したのは本書が初めてなだけにかなり貴重です。

この形は四間飛車が▲7八飛と受けた直後に、▲8八飛と再度振り直す「中村新手(著者の亮介五段ではなく、太地四段が考案)」が最善なのですが、手損なだけに知っていないとなかなか指せません。

そういった意味でも、アマチュア将棋では比較的レアな仕掛けではありますが、この形での対抗策をしっかり勉強しておきたいところ。だいたい、こういうのは5筋位取りや玉頭位取りと同様に受け方を忘れかけた頃に突然やってきますからね(笑)。
逆に居飛車党でこの急戦策をご存じなかった方は、対策を知らない振り飛車党が多いため、チャンスとも言えます。

一方、第2章の△3二金型持久戦の攻防は見方が分かれます。というのも、この章でテーマとなっているのは、上図のように居飛車穴熊に対する最新の▲藤井システムの攻防だからです。

本書の帯や宣伝文には大きな文字で「鍛えの入った正統振り飛車」と書かれていますので、本書を購入された、あるいは購入を考えている方の多くは、下の図のような「鈴木システム」や「櫛田流」のオーソドックスな形を期待していたのではないでしょうか? 実は僕もその一人です(笑)

先手なら▲6六銀型が有力

マイコミのHPなどで目次を確認して、「うむ、これは藤井システムだな」と睨んだ鋭い方には、最新の攻防を掲載した本が近年出版されていないだけに満足できる内容でしょう。

しかし、藤井システムを指さない人、図のような形を想像していた方にとってはちょっと期待はずれだったかもしれません。

後手なら△5四銀型で勝負

この辺りの行き違いは、著者の中村五段とは関係なく、公式サイトや販売サイトにおける紹介文にハッキリとそう書いていなかったのが原因だと思います。

一応マイコミのツイッターには藤井システムと明記されていたようですが…

そんな感じで、テーマとなっている戦型に納得している方には期待を裏切らない出来だと思います。

一方、上のモノクロ図のようなオーソドックス形を勉強したい方には、本書ではなく丸々一冊を対居飛車穴熊に特化した(自戦記なしで全編が講座)良書「鈴木大介の将棋 四間飛車編」がオススメです。

なお、第2・3章で紹介されている最新形に至るまで、さまざまな試行錯誤を繰り返してきた藤井システムですが、過去に登場したどの形がダメだったのか、あるいはどこを改良して現在の形に辿り着いたのかは触れられていません。

したがって、本書の対象棋力の目安を「倶楽部24」の基準で5級〜としたものの、継続的に藤井システムを指している方でないと、難易度はかなり上がります。