遠山雄亮:遠山流中飛車急戦ガイド

前編と合わせて読めば定跡は完璧
この本の詳細をAmazonで見る

評価:A
対象者:5級〜四段
発売日:2010年7月

登場から10年以上経った現在も新手が続々と登場し、トッププロがタイトル戦で採用するなど、依然として高い人気を誇っている「ゴキゲン中飛車」。
わかりやすい駒組みと振り飛車でありながらも序盤からガンガン主導権を握ることができるとして、我々アマチュアにも人気の同戦法ですが、ブームの割には近年は本格的な定跡書が出ていないのがネックでした。

そんな状況のなか、「最新の定跡を居飛車・振り飛車の双方の観点から公平に解説している」として高評価をされたのが、2009年末に刊行された「遠山流中飛車持久戦ガイド」です。

その続編となる本書は、開始から20手で激しい終盤戦へ突入する「▲5八金右超急戦」、プロの公式戦で頻出している「▲3七銀型急戦」など、対ゴキゲン中飛車における急戦調の将棋をテーマにしています。

著者は普及面、とくにネット事業関連で目覚しい活躍を見せている遠山六段。
地道に実力をつけてきたのか、それとも新婚パワーなのか、遠山六段の今期の勝率はこのレビューを書いている時点(2010年10月)で、全棋士中の第2位(0.857:12勝2敗)、また連勝記録も1位タイの10となっています。普及で汗を流している人が好成績を収めているのは、ファンでなくとも嬉しいものですよね。

本書の構成は全222ページの6章から成っており、盤面図は見開きに4枚配置されています。目次は以下の通りです。

序章 本書の概要
第1章 ▲中飛車・5筋&角交換編
第2章 ▲中飛車・角交換編
第3章 ▲中飛車・乱戦編
第4章 △ゴキゲン中飛車対▲4七銀型急戦
第5章 △ゴキゲン中飛車対▲3七銀型急戦
第6章 △ゴキゲン中飛車対▲5八金右超急戦
参考棋譜 対土佐・屋敷・有吉・加藤・中村(太)・村山の計6局

▲2五歩を保留するのがポイント

第4章 △ゴキゲン中飛車対▲4七銀型急戦より:図は▲3六銀まで
ゴキゲン中飛車の創世記から指されている▲4七銀型急戦。ここで▲4五銀を受ける△5四銀は、2五歩を保留した効果で▲2五銀と逆に出られて居飛車良しです。

そこで振り飛車は図から△3ニ金と指して、▲4五銀には△3五歩と交わして、以下▲6六銀△6四銀▲3六歩△同歩▲3八飛がよくある進行です。

復活した▲3七銀急戦

第5章 △ゴキゲン中飛車対▲3七銀型急戦より:図は▲4五銀まで
後手は▲3四銀の当たりを予め避ける△2ニ角が定跡の一手。それでも▲3四銀なら△5六歩▲2ニ角成△同金▲5六歩△同飛が、次の△3六飛(銀取り&飛車成り)と△5五角の2つの狙いを見て中飛車優勢です。

したがって、▲3四銀では先に▲2四歩△同歩の突き捨てを入れておくのが一工夫となります。突き捨てを入れておけば、上記の変化の最終手△5六飛に▲2四飛と走ることができるため、居飛車指せます。

前著では第1〜5章までが講座編で、最終章をまるまる自戦記(全3局)に充てていましたが、本書は構成をガラリと変えて、各章ごとに「講座→まとめ→ミニ自戦記」という進行で読み進めていきます。

まるまる1冊が急戦をテーマとしていますが、新旧全ての変化を追えば各章ごとに1冊ができそうな感じです。そこで本書では「押えるべき変化を中心に取り上げた(P82より)」とあるように、重要な分岐点では候補手を2つに絞って解説しています。

自戦記は初手から掲載するのではなく、講座編で登場した主要テーマ図からの重要手順を約20手ピックアップしたものになっており、講座に続く「まとめ」のコーナーを補足する実践的なものになっています。

自戦記の将棋は、棋譜+盤面図(1〜2枚)+注釈という「将棋年鑑」でお馴染みのスタイルで、あらためて巻末に掲載されています。定跡を解説したページを削ることなく、プロの公式戦で登場した実際の将棋を紹介するには、この構成が一番合っているではないでしょうか。

著者の遠山六段は振り飛車党ですが、居飛車の視点からも偏りなく定跡を解説している点が本書の最大の売りです。特に急戦の最新形は、村山六段の「ライバルに勝つ最新定跡(未レビュー)」や専門誌「将棋世界」の連載コーナー「突き抜ける!現代将棋」くらいでしか、講座としてまとめられていなかったので嬉しいところ。

本来ならば、「新・東大将棋ブックス」シリーズで対ゴキゲン中飛車の急戦・持久戦を1冊ずつ刊行していてもおかしくないのですが、何故かシリーズがストップしています。そういった意味でも本書は居飛車党・振り飛車党を問わずに大変貴重な一冊。類書がないという点では、2010年度のベスト5には入る棋書だと思います。