新・谷川浩司全集 Vol.1(平成十二年度版)

この年は好調も羽生が大きな壁に…
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評価:A
対象者:5級以上
発売日:2003年6月

本書は平成元年〜11年分まで続いた「谷川浩司全集」のリニューアル創刊の第一弾で、谷川九段の平成12年度の全対局を自戦記と棋譜解説形式で掲載しています。気になる主なリニューアル点は以下にまとめてみました。

  • 本のサイズが小さくなり、表紙のデザインが洗練されたものになった。
  • 前シリーズは3000円だったが、新シリーズでは半額の1500円となった。
  • 前シリーズの冒頭にあった対局風景のモノクロ写真のページが無くなった。

値段が一般的な棋書並みになったのは嬉しいところですが、本シリーズをこれまでコレクションされた方にとっては本のサイズが変わってしまったために、本棚での見栄えが気になることもあるでしょう(笑)

そのほか、自戦記編では前シリーズでは1ページにつき実際の進行図が1枚、途中図もしくは参考図が計2枚掲載されていましたが、新シリーズでは実際の進行図が2枚、参考図が1枚となり、進行がより理解しやすくなりました。

谷川九段の平成12年度の成績は51勝27敗で全日本プロトーナメントにも優勝、対羽生戦を除けば45勝10敗と8割を越す勝率でした。
しかし、棋聖戦・王位戦ではフルセットで羽生さんに敗れてタイトル奪取ならずと、前書きで谷川九段が『対羽生戦残念譜の極みのようになったしまった』と回顧しておられるように、残念な1年だったようです。

全271ページの2部構成で、目次は以下の通りです。

第1部 自戦記編(全15局)
・第18回全日本プロトーナメント決勝 第二局・三局:岡崎洋五段
・第71期棋聖戦 第一局・四局:羽生善治四冠
・第48期王座戦 挑戦者決定戦:藤井猛竜王
・第41期王位戦 第四局・五局:羽生善治四冠
・第50期王将リーグ:中原誠永世十段
・第50期王将戦 第二局・四局:羽生善治四冠
・第59期A級順位戦:佐藤康光九段
・第59期A級順位戦:羽生善治四冠
・JT将棋日本シリーズ2000:森内俊之八段
…ほか

第2部 棋譜解説編(全63局)
対羽生四冠・郷田八段・丸山名人・藤井竜王・森内八段・中原永世十段・米長永世棋聖・森下八段・久保六段…ほか

次の一手の問題に出そう

第41期王位戦挑戦者決定戦 ▲屋敷七段 △谷川九段より:図は△7九同銀まで
パッと見だと△7八銀で寄りそうですが、詰めろではないため、▲6三桂成△同金上▲7一銀△9三玉▲9五香△9四桂▲5二龍で一気に逆転されます。

ここで谷川九段が放った決め手は△3七角です。対して▲同角なら△7九龍で詰みですし、▲6八角なら角のラインが後手玉から逸れたので、今度こそ△7八銀で先手勝ちとなります。

本のサイズは小さくなっても、自戦記1局あたりのページ数は10〜12ページと、前シリーズ同様に余裕がありますので、変化手順だけに急かされることなく、その将棋のポイントをわかりやすい解説で把握することができます。

登場する戦型は矢倉や十八番の角換わり腰掛銀、流行の横歩取り△8五飛戦法だけでなく、全集の刊行当初には見られなかった谷川九段の四間飛車や相振り飛車などオールラウンドな内容になっていますので、居飛車党だけでなく振り飛車党の方にもオススメです。

谷川九段は「将棋世界(2009年8月号)」の連載「月下推敲」なかで、「プロ棋士の棋譜を並べる」ことを上達法のひとつとして挙げています。
「解説付き棋譜がベストだが、そうでなくとも、音楽を聴いたり、絵画を見たりするのと同じで、鑑賞するだけでも感覚が掴めてくる」とのことです。

渡辺竜王をはじめとする若手棋士も「谷川浩司全集」をひたすら何度も並べたそうです。ただ、残念なことに「新・谷川浩司全集」は平成15年度分の対局を収めたVol.4を最後に休刊となっています。「谷川vs羽生100番勝負」や「羽生vs佐藤全局集」は刊行されていますが、近年のトップ棋士で全集が出ているのは谷川九段だけですので、再開が期待されます。