森けい二:最新振り飛車の正体

掲載手順が多すぎて盤・駒は必須です
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評価:D
対象者:有段者
発売日:1991年8月

四間飛車 VS ▲4五歩急戦・右四間飛車・居飛車穴熊・玉頭位取り、三間飛車 VS △5五歩−△6五歩早仕掛け・△9五歩−△7五歩早仕掛け・居飛車穴熊など、居飛車と振り飛車の対抗形で頻出する局面だけにテーマを絞って、プロの実戦で現れた手順を元に優劣がはっきりする局面まで見て行きます。

対居飛車穴熊や左美濃などの持久戦基調の将棋は、仕掛け以前の駒組の段階から最大で6ぺージくらいを使って読み進めていきますが、急戦基調の将棋(四間飛車 VS ▲4五歩早仕掛け)などは駒が仕掛けた瞬間の局面をテーマに1〜3ページで結論に入ります。

全389ページの5章構成で見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

  • 第1章 四間飛車
  • 第2章 三間飛車
  • 第3章 中飛車
  • 第4章 向かい飛車
  • 第5章 力戦型振り飛車
後手三間には居飛車穴熊もいいが急戦も捨てがたい

第2章 三間飛車 △3二飛型 VS 早仕掛けより:図は▲4五歩まで
以下△4五同歩▲5五歩△同歩▲3七桂△5六歩▲2四歩△同歩▲4五桂△8八角成▲同銀△4六角▲2九飛△3三桂以下(本書では後15手ほど進めて)後手よしとなります。

途中、▲3七桂に対する△5六歩が角の捌きを見越した手筋となり、この手に代えて△4三銀と上がるのでは、以下▲4五桂△4二角▲2四歩△同歩▲5五角△4四歩▲5四歩△同銀▲4四角と進んで先手絶好調です。

出版社(木本書店)の宣伝文には『従来の定跡書にありがちな解説の途中打ち切りをやめ、終盤、優劣がはっきり分かれる局面まで棋譜を全て紹介。』とありますが、肝心の解説はほとんどないのが大きな欠点です。

テーマとなっている基本図から結果図(あるいは参考図)まで10〜32手くらいまで一気に進むのですが、本来なら解説がなされるべきスペースには『△2四同歩のところ△2四同角もあり、以下▲4四歩△同銀▲4五歩…(約70手に渡って手順を羅列しているだけ)…で先手勝ち』と書かれているようなことが多く、▲△ばかりで囲碁かオセロの盤面を見ているようです(笑)

どの手が急所で、どういった形成判断で先手(後手)がよしとなるかの説明が記載されている割合は、4テーマに一回くらいです。これじゃ宣伝文に「偽りあり」と言われても文句は言えないでしょう。本書は「振り飛車穴熊の正体」「最新矢倉の正体」「最新相掛かりの正体」とシリーズ化されていますが、解説に関しては本書がとくに駄目でした。

掲載されている手順はプロの公式戦で実際に現れたものですが、同出版社の「四間飛車のバイブル」と同様に対局者の名前は出てきません。ただし、そちらの方は全棋譜とともに注釈をつけて急所の手を簡潔ではありますが解説をしているので、四間飛車の研究を目的に本書の購入を考えている方には「四間飛車バイブル」の方がオススメです。

初手からの進行を目で追わなくても指定局面を見た瞬間に「あ、この場面ね」とピンと来る高段者の方には、居飛車(急戦・持久戦) VS 振り飛車における頻出局面でのプロの指し手を勉強できると思いますが、他の方は通常の定跡書で基礎を固めるのが賢明でしょう。