森けい二:最新矢倉の正体

原始棒銀の受け方は参考になりました
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評価:C
対象者:五級〜四段
発売日:1990年11月

「終盤の魔術師」の異名をとる森けい二(この漢字って表示できませんよね?)九段による矢倉の研究書です。タイトルに「最新」と入っていますが、今から約20年前に出版されたものですので、現在では見ることのない形も多く掲載されています。▲7六歩△8四歩▲6八銀△3四歩に「▲7七銀と上がるのは形を決めすぎて損。▲6六歩の方がいいんじゃないか?」と言われ始めたのはこの頃からのようです。

プロの公式戦で登場した将棋の序・中盤を実例に挙げて、森九段が手順中のポイントとなる手や結果図以降の具体的な指し手を解説していくスタイルになっています。

全316ページの7章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。最終章は復習用の「次の一手」が196問も出題されていますが、解答は正解手だけが「▲4五歩」のようにポツンと表記されているだけなので、おまけのようなものです。

目次は以下の通りですが、第1章の棒銀は「原始〜」ではなく、原子爆弾のような破壊力があるということから「原子〜」と命名されたそうです。原始でいいじゃん(笑)

第1章 棒銀
原子棒銀 / 5四銀型棒銀 / 4六銀型棒銀 / カニカニ銀 / 二枚銀対抗型 / 端棒銀
第2章 角交換型
第3章 4六銀-3七桂型
4六銀-3七桂型vs棒銀 / 4六銀-6四銀対抗型 / 6四銀型vs4七銀型…ほか
第4章 6筋(4筋)位取り
6筋位取りvs棒銀 / 6筋位取りvs6三銀型 / 6筋位取りvs6二飛型…ほか
第5章 本格矢倉 スズメ刺し
4七銀型vs6三銀型(同型)
第6章 力戦型矢倉
飛車先歩交換vs銀冠 / 銀矢倉 / 米長流急戦 / 中原流急戦/ 雁木…ほか
第7章 次の一手
復習次の一手問題

十字飛車狙いの後手の狙いを看破しましょう

第6章 力戦型矢倉 米長流急戦より:図は△7五歩まで
△7五歩は狙いを秘めた一手で、▲同歩だと△8六歩▲同歩△6六角▲同金△8六飛で綺麗に十字飛車が決まります。この形での定跡ともいえる仕掛けですので注意しましょう。

ここでは▲7五同歩に代えて▲2四歩として、以下△同歩▲2三歩△4四角(△同金は▲2四角)▲2四飛△7六歩▲4五桂が変化の一例です。この米長流急戦や同じ章で解説されている中原流急戦を勉強したい方は、佐藤康光棋聖の「康光流現代矢倉 Vol.3 急戦」などを参考にすると良いでしょう。

テーマ図として掲載されているのは全てプロの実戦なのですが、対局者が誰だかわからないというのが非常に不親切で、僕が読んだ木本書店の棋書は全部こんな感じです。

また、森九段の解説のほとんどが「▲〜と指すところで、▲〜も有力だが〜」、「▲〜のところ、▲〜では〜」といった感じでひたすら手順だけを追っており、矢倉を指す上での大局観やその手の狙い筋などが触れられていません。

多いところでは、1ページ辺りに解説されている手順が50手を超えており、将棋盤に並べないとしんどい場面も少なくありません。そのため、この本を完読するには棋力以上に気力が必要となります。値段が3500円と高額なのもネックです。

ただ、米長流急戦矢倉や中原流急戦矢倉など、現在では解説されている類書が少ない戦法の章は貴重だと思いますので、ブックオフなどで安く手に入れることが出来た方は、その辺を優先的に勉強するといいかもしれません。

なお、姉妹書として「振り飛車穴熊の正体」、「居飛車穴熊の正体」、「相振り飛車の正体」が既刊となっています。