藤井猛:相振り飛車を指しこなす本 Vol.3

本書では2種類の矢倉と美濃囲いが登場します
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評価:S
対象者:8級〜六段
発売日:2008年1月

前巻「相振り飛車を指しこなす本 Vol.2」では、美濃囲いでの▲向かい飛車VS△三間飛車を中心に解説していき、また後半では藤井九段の実戦を基にした問題で1巻と2巻で学んだことを復習していきました。

シリーズ3作目となる本書では、△矢倉囲いでの戦いがテーマとなっています。
登場する矢倉には下の盤面図のように2つのタイプがあります。先手の囲いを「高矢倉」、後手の囲いを「平矢倉」と命名しています。それぞれメリット、デメリットがあり、攻める側(本書では▲)もその囲いに応じた陣形、特に飛車の振る位置が重要になりますので、その辺りが詳しく解説されています。

対△矢倉の章を終えると、前巻と同じように藤井九段の実戦を基にした次の一手形式の問題で学んだことを復習していきます。そして最終章では、後手の相振りで最もポピュラーな4手目「△3三角戦法」が登場。角道を止めずに攻撃的な布陣を敷ける同戦法の狙い筋と受ける側(先手)が気をつけるべきポイントを見ていきます。
こちらの方はページの関係上「基礎編」となっており、本格的な攻防(先手が矢倉に組む)は最終巻で採り上げられるようです。

全209ページの5章構成で、これまでと同様に最後のページまで読み終えたら、本をひっくり返して新しい問題を最初のページに向けて読んでいくという独特のスタイルになっています。

第1章 二枚金VS高矢倉
第2章 高美濃VS高矢倉
第3章 高美濃VS平矢倉
第4章 手筋と決め手(藤井九段の実戦から出題)
第5章 △3三角戦法―基礎編

第3章 高美濃VS平矢倉より:図は△8二玉まで
先手の向かい飛車、後手の三間飛車ですが、相手の囲いに合わせてそれぞれが飛車を振り直している点がポイントです。局面図は△8二玉の入城が早すぎで、ここで先手は飛車先保留型を生かして▲9七桂と跳ねるのが狙いの一手です。

以下△6二金左などでは▲8五桂△8四銀▲5五角となり、△9二玉と交わしても▲9三桂成△同銀▲9四歩で先手優勢です。通常の「高矢倉」ならこの筋はないので、先手は後手の「平矢倉」の弱点を上手く突いたといえます。

全体的な流れとしては、▲向かい飛車+金無双と△三間飛車+4枚矢倉でスタート→先手は▲8六角の四手角(実際には二手)から攻めの理想形を目指す→左銀を▲5六銀もしくは▲6六銀とする形は、後手の角筋や△3六歩からの十字飛車を狙われる→▲7五歩△同歩▲同角と一歩持ち、7六銀からの矢倉崩しを狙う→△3六歩から後手に一歩持たれて、7五の角を目標に△7四銀と強気に盛り上がれてこられると先手苦しい→四手角から斜め棒銀にスイッチするも、またしても△3六歩からの十字飛車狙いが成立する→角のにらみに加えて、常に十字飛車の狙いを警戒しなければならない金無双は厳しい→上部に厚みを築く高美濃にスイッチ→高美濃は金無双と違い手数がかかるので斜め棒銀は狙えない→▲8六角からの四手角で6五の地点を争点にするのが有効→後手は手出しが難しいので、先手は銀冠に組み替えてド作戦勝ちを狙う(ここまで第1・2章)

そもそも後手としては「高矢倉」にすると、6筋に先手の目標となる争点を作ってしまい、専守防衛に陥りやすい→先手の四手角に争点を与えない「平矢倉」が登場→▲8五歩を突いてしまうと左桂が活用できないので、▲8六歩で保留して▲9七桂〜8五桂と跳べるようにする(ここまで第3章)…以下続く、と進行していきます。

また、本書ではこれらの流れの合間に「相手が飛車を振る→それを見て自分の囲いを決める→それを見た相手が飛車を振りなおす」という戦術が新たに登場します。

例えば、後手の三間飛車に対して先手は高美濃に組み、それを見た後手が向かい飛車に、あるいは先手の向かい飛車に対して後手が平矢倉に組み、それを見た先手が四間飛車に振りなおすといった具合です。「浮き飛車か引き飛車か」という縦の戦略に横の戦略が新たに加わり、相振り飛車がより「立体的」になっていきます。

このように巻が進むにつれて、今まで学んだ要素がスパイスとして加わっていくわけですが、残念なのは前巻で勉強した高美濃に対する「△飛車先保留型の三間飛車」が第2章:高美濃VS高矢倉において「作戦負けにならないか形」と紹介されている(P68)にもかかわらず、本編では全く触れられていない点です。

この形に組めれば△4枚矢倉も十分やっていけるということなので、その辺りの攻防も掲載してほしかったのですが、章末で盤面図を1枚使って紹介しているだけです。第4章の実戦編で触れられているのですが、出来れば講座の本編で詳しく解説がほしかったなと。

最終章の△3三角戦法は、本シリーズ初となる後手の視点での解説となります。盤面図は便宜上、逆さまにしてありますので非常に読みやすいです。

解説のわかりやすさやポイントのまとめ方、問題量などはこれまでと同様ですので、このシリーズを2冊読んで満足された方なら、引き続き勉強になるでしょう。

次巻でシリーズ完結となりますので、そちらの方も発売され次第レビューしたいと思います(4/30追記:「相振り飛車を指しこなす本 Vol.4」をレビューしました)。
テーマである「△3三角戦法VS▲矢倉」は、「NHK将棋講座」の講師を務めることとなった杉本七段の「相振り革命3」でも詳しく解説されていますので、お持ちの方はそちらで予習しておくとよいでしょう。