藤井猛:相振り飛車を指しこなす本 Vol.2

本巻では金無双に加えて、美濃囲いが登場します
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評価:S
対象者:8級〜六段
発売日:2007年9月

前巻「相振り飛車を指しこなす本 Vol.1」では、▲向かい飛車VS△三間飛車における基本定跡を、金無双→矢倉→穴熊→金無双という「囲いの力関係」を交えつつ解説していきました。

簡単に振り返ると、まずは相金無双の戦い→後手の3筋交換+浮き飛車に乗じて先手は矢倉に組み、金銀の厚みで飛車をいじめる→浮き飛車は矢倉の格好の目標となるので、後手は引き飛車から△4二飛と振りなおし「矢倉崩し」の構えを築く(囲いは美濃囲いと金無双)→後手が攻勢も手順を尽くして受けられると、美濃囲いでは玉頭攻めが、また金無双では囲いの薄さが響いてくる→そこで後手は穴熊+矢倉崩しにスイッチ→矢倉の方が手数が掛かるために、先手は攻めの形が遅く守勢になる→穴熊に対して速攻できる体制を整えるには手数の掛からない金無双がベスト…と、相手の出方によって、双方が手順を尽くすイタチごっこのような関係でした。

本巻でも引き続き▲向かい飛車VS△三間飛車の戦いを見ていきますが、△5三銀〜△5五歩〜5四銀と5筋の位を取る美濃囲い、後半では先後共に美濃囲いの形が登場します(▲美濃囲いはシリーズ初登場)。

また、前巻では何気なく進められていた△3六歩▲同歩△同飛の飛車先交換のタイミングを見直していきます。早すぎても遅すぎても、先手にはそれに応じた対応策があるからです。そして、最終的には後手三間が△3五歩と突かないで△3四歩で保留する指し方(飛車先不突き矢倉のイメージ)とその利点を詳しく解説していきます。

全198ページの3章構成となっています。第3章では趣向を変えて、1巻と2巻で学んだ相振り飛車の基本定跡とそのエッセンスを、藤井九段の実戦を元にアレンジした「次の一手」形式の問題で復習していきます。

1章 二枚金VS美濃囲い
第2章 美濃囲いVS美濃囲い
第3章 手筋と決め手

後手の陣形は美濃囲いの急所をついています

この形が目次の前に軽く紹介した△飛車先保留型の三間飛車です。序盤の早い段階で△3六歩から飛車先交換をすると矢倉に組まれる可能性が出てきますし、△3五歩の状態のままにしておくと、今度は高美濃に組まれてしまいます。美濃囲いの弱点は端(1筋)ですが、この△3五歩の状態ですと△4四角と出て角を端攻めに使おうとしても、角筋を歩が邪魔してしまいます。

そこで有力視されるようになったのが、角筋を生かして端攻めが可能となる△飛車先保留型の三間飛車です。上図の局面で仮に▲9五歩なら、以下△2五桂▲2六歩△同角▲2七銀△4四角▲2六歩△1七桂成▲同香△2五歩と後手の攻めが決まり、先手支えきれません。

本書では先手の対策として、1.▲8六角とせずに▲7七角のまま待機することによって、端攻めから香車を入手して△8四香とされる筋を警戒しておく 2.▲3六歩〜3七銀〜3八金と矢倉に組み換えて、△2五桂に▲2六銀を用意しておく…などが紹介されています。

全体的な流れとしては、▲向かい飛車+金無双と△三間飛車+美濃囲いでスタート→前巻で勉強した『三間飛車には角交換』を狙いに▲6五歩→△4四歩で角交換拒否も、▲6六角・7七桂の好形を作られ、端攻めでアウト→△4四歩に代えて△5五歩と中央に位を張りながら角交換を拒否。→再度▲6六角は△6四歩から角頭を狙われるので、▲6六銀とするも後手の浮き飛車による横利きが強く攻めが上手くいかない。→後手の浮き飛車を阻止するために先手は矢倉へスイッチ→△3六歩と飛車先交換をしなければ矢倉に組まれないので、これを後回しにして5筋位取りから高美濃へ組む→高美濃に組まれると先手は角と桂馬が使いにくいので▲6八角・7七桂馬から端を狙う→形勢互角も中央の位をガッチリ抑えられて、端攻めしか狙い筋がない先手は面白くない→ここでようやく先手の美濃囲いが登場…以下続くとなっています。

この辺の相振り飛車特有の駆け引きも、章末の『チェックポイント』できれいにまとめてありますので、復習の際に「そもそもなんでこの形に行き着いたんだ?」ということにはなりません。

一手一手の意味が明確に説明されていますし、先手・後手の悪手はそのとがめ方も問題として出題された後、再度正しい手順を見ていきますので、何度も読めば相振り飛車の骨格がキチンと出来上がると思います。

ただ、第3章が復習問題となっておりページ数も1/3以上割かれているために、前2章にしわ寄せが来た感があります。例えば、前巻では序盤は指してが一手進むごとに問題が出題され、中盤でもゆっくりと進行していたのですが、本巻では比較的早い段階から『前問から△〜▲〜△〜進みました。〜どう指しますか。』と、5〜7手くらいをまとめて省略する箇所が目立ちます。

前巻は既に類書が多い金無双ということで、サラリと読めた方も多かったと思いますが、本書は初見の形が多く、この手順の省略の部分もあいまって難易度は少し上がっているようです。

相振り飛車では、形を決めるのが早くても遅くても駄目で、藤井九段の『相振り飛車はセンスが大切(1巻前書きより)』という言葉の意味がよくわかる一冊です。

シリーズ次巻となる「相振り飛車を指しこなす本 Vol.3」では、後手番の相振りとしては最も人気のある4手目△3三角戦法や、相手に争点を与えない平矢倉(△6三金左とせずに△6二金左と低く構える)など新しい形も登場しています。