藤井猛:相振り飛車を指しこなす本 Vol.4

シリーズ最終巻は△3三角戦法を完全網羅しています
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評価:S
対象者:5級〜六段
発売日:2008年4月

久々に「続編が待ち遠しい!」という気持ちにさせてくれたこのシリーズも、いよいよ最終巻を迎えます。
藤井九段の前書きによると、『相振り飛車を指しこなす本 Vol.3が将棋会館で売り切れていたのは、どうもプロ棋士や奨励会員が買ってしまったようなのです。』とのこと(←なんだか嬉しそう)。専門誌「将棋世界」でも飯塚七段が絶賛しておられたので、実際に多くのプロ棋士が参考にしていると思っていましたが、他のプロ棋士やファンもいる将棋会館の1階で買うのはちょっと勇気がいりませんか(笑)

本書のテーマですが、前巻の後半で登場した△3三角戦法の続編となっています。前巻では同戦法の狙い筋とその威力をわかりやすくするために、後手の視点(盤面をひっくり返して)で読み進めていきましたが、本巻では従来どおり先手の視点で、この戦法の攻防を詳しく見ていきます。

全232ページの4章構成となっており、最後まで読み終えたら前半部が終了で、今度は本を逆さまにして最初のページ向かって後半部を読み進めていくという独特のスタイルとなっています。

なお、プロローグでは「番外編」として△3三角〜2二飛の序盤から△2四歩と突いた際に、▲2六歩と居飛車の意思表示をされた場合の指し方も簡単に触れられています。本シリーズのテーマである相振り飛車ではありませんが、この戦法を指していればどこかで遭遇する形ですので、こういう細かいフォローもうれしいですね。

第1章 △3三角戦法(中級編)
第2章 △3三角戦法(上級編)
第3章 △3三角戦法の考え方
第4章 作戦選択と駆け引き

第2章 △3三角戦法(上級編)より:図は△2四角まで
飛車先不突を活かして△2四角と中央への殺到を狙ってきました。ここで▲4六歩は争点を与えることになってしまい、以下△4四歩▲4七金右△4五歩▲同歩△3三桂とされ、次の△4五桂▲4六銀△同角▲同金△5七桂成の狙いがあり後手優勢です。△3三桂に▲4四歩の手筋の突き出しも△4二飛とされて無効となります。

ここでの唯一の受けは形にとらわれない▲4六銀で、本書では以下の手順も詳しく解説されています。

全体の流れとしては、まず▲矢倉+向かい飛車、△高美濃+3三角戦法(向かい飛車)でスタートして、以下のように進んでいきます。

後手は角道を止めずに△5四歩から△5三銀〜4四銀と斜め棒銀風の攻め(本書では速攻棒銀と呼んでいます)に出ます。狙いは△3五歩▲同歩△同銀▲3六歩△2六歩▲同歩△同銀▲同銀△同飛の銀交換です。

この狙いは▲2八玉と入城していれば受かりますので、後手はそれよりも一歩早く動きますが、今度は△3五歩に▲4六歩として、△3六歩▲同銀△3五歩に▲4七銀とするスペースを作り、後手の銀を捌かせないようにします。以下は矢倉を再生しつつ上部に厚みを築けば先手が自然によくなります。

速攻棒銀が上手くいかない後手は矢倉にスイッチ→▲8六角〜7七桂の形から▲6五歩を狙われると後手の飛車の位置が悪く、▲3一角成を狙われる→後手は高美濃から△5五歩〜△5四銀〜5二飛にスイッチ。△4五銀(あるいは△2四角)から中央突破を狙う→先手は早めに▲4六歩として銀の進出を防ぐ→後手は4筋に争点ができたと察知して△4四歩〜△2四角から△4五歩▲同歩△3三桂の仕掛けを狙う→後手の攻めは飛車角銀桂なので先手はどんな囲いでも必ず潰される→▲4六歩を突くならば、受け一方の展開にするのではなく、攻め合いを目指す→後手の攻めは強力なので、先手は駒組を見直す手もある。具体的には早めに中央に備え、▲8六角から▲6五歩の先制攻撃を目指す…となります。ここまでが第1章の中級編の内容です。

続く第2章では、後手が飛車先の歩を△2四歩の状態で保留するところから始まります。先手に矢倉に組まれると、飛車先を伸ばしても、1.歩交換ができない 2.歩が邪魔して矢倉崩しの△2五桂が跳ねられないというデメリットがあるからです。

この章も▲矢倉+向かい飛車、△高美濃+3三角戦法(向かい飛車)でスタート→先手が漫然と駒組を進める→△4四角〜△3三桂〜△1三香〜1二飛からのスズメ刺しの強襲が成立→先手は早めに▲8六角〜6五歩で▲3一角成を見せて後手を牽制→△3二飛と途中下車を余儀なくされる→▲4六歩〜4七金〜2六銀と駒組を進めて先手優勢→後手は飛車先保留を活かすために、△5四銀の腰掛銀にスイッチ→先手も▲5六銀として相腰掛け銀の形に→早めに▲6五歩とすると角交換から△4四角と絶好の位置に角を据えられてラインを押さえられる→先手は▲6五歩を保留するも、△1三桂〜△2五桂(飛車先保留のメリット)があり、▲2八玉と入城できないなど制約が多い…となっています。

この章ではほかにも、スピード感溢れる飛車先不突き型の△3三角戦法(上図参照)や、玉の囲いを最小限にとどめた速攻棒銀の超急戦型が解説されています。

第3章では、△3三角戦法の序盤における考え方をレクチャーします。
具体的には「▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲4八銀に対して△2二飛とまわるのは得か、損か?」、「△2二飛ではなくダイレクトに△5二飛(4二飛)として一手得と狙う順」、「▲7九銀のまま▲8八飛車とする順」、「▲6七銀を保留して▲6八銀で5七の地点を手厚くする順」など、序盤でのちょっとした駒の配置の違いを見抜いて機敏に動き、作戦勝ちを狙う手順を見ていきます。やや高度ですが、プロをも唸らせる藤井九段の序盤戦術が垣間見れる貴重な内容となっています。

第4章 作戦選択と駆け引き より:図は△5三金まで
ここでは先手から、▲9四歩△同歩▲7四歩△同歩▲9四香△同香▲7三歩というスピードある攻めがありました。△7三同銀は▲8三飛成、また△7三同桂には▲9三角成△6二玉に▲8四歩△同歩▲8三歩からのと金攻めがあります。

最終章では、シリーズの総括として藤井九段の実戦(上図参照)をもとに、相振り飛車での戦い方を学んでいきます。△3三角戦法は登場せずに、初手▲5六歩△3四歩▲5八飛に対して△3二飛と相振りにした形(杉本昌隆:相振り革命3でも登場)や、初手▲7六歩△3四歩▲6六歩△4四歩と互いに角道を止めた形などが採り上げられています。

テーマは「作戦選択」と「駆け引き」となっていますが、序・中盤はもとより、終盤での華麗な(あるいはガジガジな 笑)寄せまでが一本の線として勉強できる密度の濃い章になっています。

この章は80ページも用意されていますので、実戦では現れなかったものの、我々アマチュアにとって参考になる攻め(受け)筋の解説もキチンと掲載されています。

既にシリーズ3巻をお持ちの方なら、本書を読み進めながら、「浮き飛車には矢倉(高美濃)から上部に盛り上げて、金銀で飛車をいじめるのがナウでヤングな指し方だよね(1巻参照)」、「▲9四歩△同歩▲9三歩△同香▲8五桂と跳ねる端攻めは、単に▲9三桂成といくよりも、一旦▲9八飛と回ってから▲9三桂成△同桂▲9四飛△9二歩▲9八飛として、次に▲9四歩を狙うのが筋だったな(2巻参照)」、「対矢倉で飛車先を保留するのは、△2五桂をちらつかせて、矢倉への入城を牽制する狙いがあるんだよね(3巻参照)」と、これまでに勉強した内容が自然に頭に浮かんでくることと思います。

こうなると「以前の自分に比べて、相振り飛車が着実に上達している!(…と信じたい)」という充実感もありますし、ますます相振り飛車が好きになること請け合いです。

今後よほどの本が出ない限り(藤井本を超えるのは藤井本しかないでしょう)、「相振りのバイブル」であり続けるであろう名著ですので、普段は棋書を読んで勉強することのない方にもオススメです。

シリーズの次回作は中田功七段の「三間飛車を指しこなす本」か、渡辺明竜王の「現代矢倉を指しこなす本」と予想していますが、皆さんはどうでしょうか。