中原誠:横歩取り中原流─必殺陣第二弾!△5一金型─

これが△8五飛戦法に繋がりました
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評価:C
対象者:5級〜三段
発売日:1995年4月

相掛かりの定跡型の序盤で突如▲5六飛と回った名人戦(対谷川)や▲6九玉−5九金−4八銀(中原囲い)から飛・角・桂だけで手を作る「中原流相掛かり」、横歩取り△3三角戦法に中原囲いを用いて攻撃力を高めた「横歩取り中原流」など、90年代の中原十六世名人は他のプロ棋士が真似できない独創的な将棋でトップ棋士の地位を守ってきました。

本書はその「横歩取り中原流」の狙い筋と優秀性をわかりやすく解説した指南書です。全220ページの4章構成で、△5二玉の中住居で戦う従来の「△3三角戦法」との比較に第1・2章が、そして16世名人の自戦記に第3・4章が用意されています。目次は以下の通りです。

  • 第1章 △5二玉型(▲6八玉型・▲5八玉型)
  • 第2章 △4一玉〜5一金型(角交換型・角不交換型)
  • 第3章 △5二玉型の実戦(対富岡七段・高橋九段)
  • 第4章 △4一玉〜5一金型の実戦(対森内九段×2・羽生四冠・高橋九段)

第2章 △4一玉〜5一金型より:図は△5四歩まで
従来の△5二玉型なら△5四歩は玉頭の傷を広げる形となり到底指せない一手でしたが、中原囲いなら△5四歩〜5五歩と伸ばすことができるのが最大のメリット。

さらに△7四歩〜△7三桂、△4四角〜△3三桂と跳ねる筋もあり、▲5八玉に狙いを定める中央志向の攻撃態勢を目指せます。

本書では書かれていないがこの中原流にも弱点はあります。それは従来の中住居と中原囲いを比べると中原囲いの方が3筋に近いため、桂頭に狙いを定めた▲3六歩〜3五歩が玉に響きが強いという点です。

「横歩取り中原流」が登場したのが1993年ですが、その年末から中原十六世名人は同戦法で森内・羽生・谷川と計6局戦い、全てこの▲3六歩〜3五歩のラインで苦しめられたのです。

この戦法を愛用していた中座真七段が、なんとかこの▲3五歩を阻止できないかと思案して誕生したのがあの「△8五飛戦法」だったのです。いや〜お二人の名前がマコトなのも運命でしょうか?

横歩取り中原流から△8五飛戦法誕生とその後の軌跡は「最新戦法の話」の第9講で中座七段のインタビューを交えて、詳しく解説されていますので、同書をお持ちの方はご確認ください。

「倶楽部24」や「Yahaoo将棋」などのネット将棋が誕生する前の戦法ですので、現在この戦型で戦う人はほとんどいないと思いますが、ブームとなっている△8五飛と違って初見の対戦相手は急所がどこかわかりにくいかもしれませんので、横歩取りマニアの方は一読しておいても良いでしょう。

ただし、従来の中住居と自戦記に多くのページが割かれたため、肝心の△4一玉〜5一金型の内容がやや薄くなってしまっているのが難点です。また、僕はそれほど気になりませんでしたが、自戦記はいずれも序盤の数手〜15手くらいを省略して第1図を迎えています。