谷川浩司:将棋新理論

それぞれの駒の特性を生かした手筋を解説
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:1999年6月

歩から玉まで、それぞれの駒が持つ特性を理論的に分析し、それを生かした駒組み・攻め方・受け方などを解説する新しいタイプの棋書です。

『上級者には高度な将棋の本質を、中級者には一層の飛躍のための考え方を、初級者には効率よく上達するための秘訣を伝えたい』と前書きにありますが、全編を読みこなすとなると中級レベルの棋力は必要となります。

全221ページの8章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。

第1章 歩 その多様性
第2章 香 その直進性
第3章 桂 その意外性
第4章 銀 その機動力
第5章 金 その信頼感
第6章 角 その総合力
第7章 飛 その攻撃力
第8章 玉 その存在感

第1章 歩 その多様性より テーマは「固さと広さ」です。
先手と後手の美濃囲いはどちらが固く見えるでしょうか? 一見するときっちり空間が詰まっている先手の方が固く見えるかもしれませんが、この先手玉は一旦王手が掛かる展開になると、簡単に受け無しになることがあります。

例えば、金銀を持たれ、△5五角〜△3六桂と迫られる展開になると簡単に寄ってしまいます。先手玉の周りには空間が少ないですが、その空間の無さが逃げ道の少なさにつながっているわけです。

一方、後手のみの囲いはその空間が逃げ道になっています。例えば▲8六桂〜7四桂と来られても、△8三玉や△7三玉と逃げて簡単にはつかまりません。玉周辺の空間が粘りの余地を作っているわけです。

同じく歩の章では「端歩 その関係と詰み」と題して、玉の退路(=△9四歩)があるのとないのとでは、詰みに必要な金銀の枚数にどのような違いが生まれるのか検証し、端歩一マスの重要さを理論的に解説していきます。

複数の歩を突き捨てる場合には『より当たりの弱い地点から順番に』などの、是非覚えておきたい原則も実例を挙げて掲載していますので、頭に残りやすいでしょう。

金や銀がどの位置に並べば好形となるのかを、駒が2重に利いている地点には「◎」、一つだけ利いているところには「○」、盲点には「×」といったビジュアル的なマーキングを利用して説明している点もわかりやすいです。

この手法は、島朗八段が講師を務めた「NHK将棋講座」でも採用されていたので、そちらからヒントを得たのかもしれませんね。

ただ、全部の駒を一冊にまとめるにはページが不足しているのと、その特性を生かして実戦でどう考えて指せばよいのかをまとめきれていない点が少し残念です。

駒別の手筋を総ざらいした問題集ではありませんが、駒の特性を知ることによって、何気なく指している一手や囲いにも理論による裏付けが必要と改めて気づかせてくれる一冊です。

こういう普遍的な特性を理解しておけば、定跡から思いっきり外れた力戦の将棋になったときに道標として役立つので、指し手に迷うことが少なくなるでしょう。

谷川九段の類書には2006年度上半期の「NHK将棋講座」の内容を単行本化した「谷川浩司の本筋を見極める」があります。序・中・終盤における考え方を体系化して勉強できる良書ですので、そちらも参考にしてみてください。