藤井猛:四間飛車の急所 Vol.2 急戦大全(上)

鷺宮定跡に対する捌き方が網羅されています
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評価:S
対象者:5級〜五段
発売日:2004年8月

本書は、「四間飛車の急所を、その定跡の進化を追いながら自然と身につける(一巻前書きより)」ことを目標に刊行された、『四間飛車の急所』シリーズの第二巻です。

第一巻は急戦・持久戦の主な変化手順・急所を広く紹介しており、どちらかと言うと「四間飛車全体の流れを理解する」プロローグ的な一冊だったのに対し、本巻からは一つ一つの戦形に的を絞って、深く、そして系統立てて解説するスタイルになっています。

本書では、居飛車側が四間飛車側に対して、23手目に▲5七銀左と上がった局面を基本図として、そこから四間飛車側が@△5四歩 A△6四歩 B△1二香 C△4三銀、と4つの手を選択した場合、以下どのような戦いになり結論はどうなのかを、一手一手藤井九段の思想を交えて実に詳しく解説されています。

260ページ、見開きに局面図が3〜6枚の全四章構成となっています。また、各章の最初にチャート図が一枚あり、どの手を選んだらどのテーマ図に行けばいいのか番号がつけてあります。

次に『藤井ファイル』と題して、テーマ図以下の本筋となる変化手順とその結論をさらりと解説してありますので、予習・復習が簡潔にできます。この構成は「羽生の頭脳」シリーズと全く同じですね。

第一章「24手目△5四歩」 第二章「24手目△6四歩」
第三章「24手目△1二香」 第四章「△4三銀型vs斜め棒銀」

第一章から第三章までは、四間飛車側の△5四歩・△6四歩・△1二香・△4三銀の四手の組み合わせ(プラス端歩の有無)が、その後の局面にどう影響を与えるかをジャンケンにおけるグー>チョキ>パーの関係のように、システム化して解説してあります。

会話風に例えてみるならば・・・
振り飛車 『24手目は△1二香で待機だな。』
居飛車 『ここで山田定跡はダメだから▲3八飛と鷺宮定跡か・・・』
振り飛車 『ほう、そう来たか。ここで△4三銀だと鷺宮定跡の餌食だ。かといって△5四歩も最後に▲9七角と飛車に当てられてまずい・・・よし△6四歩だ!』
居飛車 『むむ。これは振り飛車ベストの形に近い。ここはもう一手、相手に指させた方が居飛車が得かもしれん。▲6八金直でどうだ?』
振り飛車 『もう一手指させようって事か、中央をいじると仕掛けられるから△1四歩はどうだ?▲1六歩なら、こんどこそ△4三銀で鷺宮には勝てる』
居飛車 『ここで▲1六歩はマズイと四間飛車の急所に書いてある。ここは仕掛けるしかないな。▲5五歩で決戦!』
以下 形勢不明(154ページより)という感じでしょうか。

このように一手一手の意味を解説して手順を追う、という流れになっているので、長い変化になっても頭が混乱せずについていけるようになっています。

「十年後も使える四間飛車の定跡書」を念頭に作られているので、変化手順は妥協無しです。それにもかかわらず、『四間飛車道場』シリーズのような難解さを感じないのは、その手の狙い・意味や前章との比較が繰り返し述べられているからでしょう。

藤井九段の四間飛車への思想・情熱と、企画・構成に定評がある浅川書房(河出書房から独立)のコラボレーションによってこそ、初めて成し遂げられた四間飛車本の傑作だと思います。

四間飛車党の人はバイブルとして長く手元に置いておきたい一冊です。
続編の「四間飛車の急所 Vol.3 急戦大全 下巻」とあわせてどうぞ。