鈴木輝彦:続・将棋戦法小事典

特に居飛車党の方にオススメ
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:1994年12月

鈴木輝彦七段を講師に迎えた「NHK将棋講座(1991年4月〜1992年3月)」のテキストを元に刊行された定跡の手引き書「将棋戦法小事典」の続編となります。

ページの都合上、前巻では掲載できなかった変化手順や戦型を中心に解説していますので、前巻を読んだ方でも重複することなく居飛車・振り飛車の定跡を詳しく勉強できるでしょう。

例えば矢倉の章では、森下システム・▲3七銀急攻型・矢倉中飛車がテーマとなっていますが、これらはいずれも前巻では登場していませんでした。その他、四間飛車VS右四間飛車・四間飛車穴熊VS銀冠・中原流▲5九金型相掛かり・中原流△5一金型横歩取り・塚田スペシャル・カニカニ銀・雁木なども初登場となっています。

全330ページの13章構成で、見開きに盤面図が5〜8枚配置されています。目次は以下ようになっています。

第1章 四間飛車
第2章 中飛車
第3章 三間飛車
第4章 向かい飛車・相振り飛車
第5章 穴熊
第6章 矢倉
第7章 棒銀
第8章 腰掛け銀
第9章 相掛かり
第10章 ヒネリ飛車
第11章 横歩取り
第12章 雁木
第13章 諸種の戦法

鈴木輝彦七段の十八番戦法です

第6章 矢倉〜矢倉中飛車より:図は▲6八銀左まで
相矢倉の序盤から後手が主導権を握りやすい矢倉中飛車にした局面です。先手は▲5七銀&一旦上がった▲7七銀を▲6八銀とバックして低い陣形を築くのが最強の構えです。

図以下△6五歩▲同歩に△8八角成▲同玉△4四角は▲9八玉で攻めが息切れしてしまいます。また△4四角に代えて△6六歩▲同銀△6五銀と強引に攻めるのも、以下▲5七銀上△6六銀▲同銀△6五歩▲5五銀△6六銀に▲6三歩と反撃されてしまいます。

「NHK将棋講座」のテキストは毎年、加筆・再編集して単行本化されていますが、近年のものと違い本書はかなり硬派なつくりになっており、変化手順がページを埋め尽くすようにビッシリと書き込まれています。

実際に盤に並べて勉強するのが一番ですが(寒い時期は炬燵から出たくない?)、参考図も見開きで最大8枚ほど掲載されていますので、中級以上の方ならそのままでも読みこなせる内容です。ただし、鈴木七段が気合を入れすぎたのか、前巻に比べると明らかに1ページ内の変化手順が増えており、難易度は上がっています。

15年以上前に書かれた書籍ですので、近年になって定跡化が急激に進んだ相振り飛車、対左美濃対策(決定版となった藤井システムは当時まだ登場しておらず)など、一部の項目は最近の棋書で勉強したほうがいいかもしれません。

しかし、居飛車・振り飛車の各種戦法をこれだけ広範囲に解説している定跡書は他にありません。本格的に定跡を勉強したい中級者(特に居飛車党)の方にとっては、前巻と合わせて長〜く手元に置いておきたい定跡書になるでしょう。

2冊で重複部分はほとんどありませんので、読むなら2冊揃えるのがベスト。2冊両方>1巻だけ>2巻だけ という感じですかね。

なお、基本的な定跡は知っているけど比較的新しい形にも精通したいと思っている方には「将棋定跡最先端」などがオススメです。

追記:若い方はご存じないかもしれませんが著者の鈴木(輝)七段の十八番戦法と言えば上記の矢倉中飛車でした。雑誌「将棋世界(1995年1月号)」でも『矢倉中飛車の講座とくれば、現棋界で私しかいいない、否、他に適任者がいない』と高らかに宣言して、1年間にわたって同戦法の詳しい講座「矢倉中飛車の美学」を担当していました。

攻撃力に優れている反面、玉が薄く反撃を受けやすいため、『矢倉中飛車は数ある矢倉のバリエーションの中でも最低の戦法(森下九段)』や『プロの指す将棋じゃないですよ(田中九段)』と散々な評価でした。しかし、順位戦で佐藤(康)九段や森内九段、そして第7期竜王戦の挑戦者決定戦で羽生四冠が行方七段相手に採用したことから、再び見直されるようになったのです。

鈴木七段は上図の形に至るまで試行錯誤を繰り返し、最低でも数十局は負けたそうですが、若手棋士たちが自分のオリジナル戦法とも言える矢倉中飛車の「おいしい所」だけを持っていくのがやりきれなかったようで、当時の将棋世界で『羽生名人(当時)は義理堅い男である。この戦法で挑戦者になったのなら、賞金の1%で必ず食事をご馳走してくれるだろう(原文そのまま)』とぼやいておられました(笑)

これには後日談があって、その文章を読んだが羽生さんが『また使わせていただきます』という手紙を添えて、フルーツの詰め合わせを送ってきたそうです(笑)。
本書とは全く関係ありませんが、面白い話なので掲載しました。