鈴木大介:相振り中飛車で攻めつぶす本

左銀の活用を優先するのが全章の共通ポイント
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評価:B
対象者:8級〜五段
発売日:2010年7月

本書は、初手▲5六歩から角道を開けたまま中飛車にする戦い方を解説した鈴木八段のベストセラー「パワー中飛車で攻めつぶす本」の続編あるいは、姉妹編という位置付けになっています。テーマはページの関係上、前巻では採りあげられなかった▲中飛車での相振り飛車(対向かい・三間・四間・中飛車)です。

この10年で目覚しく発展した相振り飛車の定跡&考え方。その試行錯誤のなかで、数々の金科玉条が生まれましたが、有名なもののひとつに鈴木八段の著書や連載で登場する「飛車の振る場所は、自玉から離れているほどよい(向かい>三間>四間>中飛車)」があります。

相振り飛車における中飛車は、@一旦▲7七角と上がって角に桂馬でヒモを付けておかないと、左銀を動かしにくい(▲5五歩で相手の角道を遮断していても、▲6八銀の瞬間に△5四歩と突かれて困る)、Aかといって、序盤での▲7七角は一手パスに等しく、冴えない序盤展開になってしまう。

また、趣向を変えて、B角道を開けずに、居玉から▲5五歩&▲5六銀〜6五銀の速攻を繰り出しても、△向かい飛車or三間飛車から、5筋に争点を与えないように△4ニ銀と低く構えられると、攻め足が止まるうえ、駒組みが進むと5五の歩が伸びすぎでかえって目標になり、作戦負けになる、という欠点があり敬遠されてきました。

すべてはこの基本図から始まります

そこで本書では、図のように左銀の動きを最優先させ、角に飛車のヒモを付けてから、角道を開けると新しい指し方を紹介しています。

この構えは、序盤で不急の一手となる▲7七角を省略して、左銀を▲4六銀or▲5六銀or▲6六銀と柔軟に活用できるうえ、対向かい・三間・四間・中飛車のいずれにも対応できるという大きなメリットがあります。

全240ページの7章構成となっており、前巻と同様に「次の一手」形式の問題を解き進めながら定跡&考え方を理解し、最終ページに辿り着くと、今度は本を逆さまにして新たな問題を解くという淺川書房特有のスタイルを採用しています。目次は以下の通りです。

第1章 向かい飛車(△8八角成▲同飛)からの速攻(対三間飛車 Part1)
第2章 早めの△3五歩を標的に(対三間飛車 Part2)
第3章 すべてを変える銀上がり(対三間飛車 Part3)
第4章 現代感覚の穴熊へ(対三間飛車 Part4)
第5章 攻めの速度が違いすぎる(対向かい飛車)
第6章 鏡を壊す中座飛車(対中飛車)
第7章 中央突破が成立(対四間飛車)

△3四飛→△7四飛の揺さぶりも怖くない
第2章 早めの△3五歩を標的に より:図は▲4六銀
「早めの△3五歩には▲4六銀」が、相振り中飛車での基本中の基本。以下△3六歩▲同歩△同飛の一歩交換には、▲3五歩と蓋をして▲2八銀→▲3七銀で飛車の捕獲を、何もしなれば▲5五歩→▲7九角から一歩得などの狙いがあります。

△4ニ銀型には▲5五歩は間に合わない
第4章 現代感覚の穴熊へ より:図は△4四歩まで
問題は「ここでの▲5五歩は好手か、それとも形の決めすぎでしょうか?」というもの。正解は、▲5五歩は△4三銀▲6六銀に△6四歩がピッタリとなり攻めが間に合っていないため、形の決めすぎということになります。

▲2八銀と△4ニ銀の交換が入っていない場合には、▲5五歩が成立します。
すなわち、以下△4ニ銀▲6六銀に放置ならば▲5四歩がありますし、△4三銀には▲6五銀〜▲5四歩があります。ちょっとした形の違いに注意が必要ですね。

全章の共通テーマとなっている▲5八飛・▲5七銀の構えは、杉本七段の「相振り革命最先端」でも紹介されていましたが、そちらの方は対向かい飛車における▲穴熊と戦型が非常に限定されていました。相手の飛車の振る場所を問わずに、▲中飛車でのこの構えを丸々一冊解説している棋書は本書だけですので、中飛車党の方は勉強になるでしょう。

新しい指し方=気づきにくい狙い&注意すべき筋が序盤に眠っているので、解説は初手からスタートします。問題図の下には【基本】【応用】【プロ級】の難易度表示、前問からの進行手順、形勢判断、注意点やヒントのいずれか、あるいはその組み合わせが掲載されています。選択肢が示されていることもあれば、「ここで▲○×は成立するでしょうか?」という形で問われることもあります。

正解と解説は、基本的には翌ページの上段1/3のスペース(下段は次の問題図)を使用して、ポイントを絞って簡潔に掲載していますが、重要項目では1ページ全てを使っています。また、各章末には【この章のポイント】として、箇条書きの形で復習を行います。

問題の出題間隔・進行手順はゆっくりですので、一手一手自分が指しているようなバーチャル感覚で読み進められるのが、「次の一手」形式を採用している浅川書房の棋書の特徴です。

ページ配分は戦型ごとに均等ではなく、対中飛車に採用率が高く、有力とされている三間飛車が最も多く全体の半分以上を占めています。

それぞれの内容は、△8八角成▲同飛の角交換となれば、手損をせずに向かい飛車+▲5七銀→▲6六銀→▲7五銀の斜め棒銀からバリバリ攻めて先手良し(第1章)、早めの△3五歩には▲4六銀として、後手の動きを見ながら、@一歩交換阻止、A一歩得を目指す、B中央からの攻め、の方針を上手く切り替える(第2章)、角道を止める消極的な△4四歩には▲5五歩〜▲6六銀で中央を狙う。▲6五銀や▲6五桂を防ぐ早めの△6四歩には▲6六歩から四間飛車へチェンジ(第3章)、後手は▲4六銀か▲6六銀を見極めたうえで、その逆を突く高等戦術を採用。そこで先手は左銀の動きを保留するために穴熊を採用する(第4章)、となっています。

対向かい飛車・中飛車・四間飛車における戦い方は、それぞれ1章ずつ用意。なかでも、第4章の対四間飛車は、「△4六歩の飛車先交換から一歩持たれて、△4三銀→△4四銀」という理想形の阻止を目指して、通常の美濃囲いではなく金美濃(カニ囲いに近い)に組むオリジナルの形が詳しく解説されており、参考になります。

一方、プロの公式戦では滅多に登場しないものの、我々アマチュア将棋では頻出の相中飛車を採りあげた第6章は、鈴木大介の将棋 力戦相振り編で有力とされている形をスルー&実戦での実現度が怪しい局面まで解説を進めるなど、やや冗長気味なところが気になりました。

対居飛車の中飛車は得意だけれども、相振り飛車になるとちょっと・・・という方は少なくないと思います。『本書はプロの最新定跡ではなく、みなさんの実戦に現われやすい形を中心に紹介(前書きより)』していますので、頻出局面を効率よく学ぶことができるでしょう。