中原誠:決断の一手!

手抜きとも取られかねない構成が難点
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評価:C
対象者:5級〜五段
発売日:2008年7月

中原誠十六世名人の実戦を題材に、中・終盤における「決め手」を「次の一手」形式で100問ほど出題しています。ご存知のように、中原十六世名人は本書の出版から1ヵ月後の王将戦二次予選(対木村八段)の対局後に脳内出血で入院し、翌2009年3月に引退を発表しました。

「棋界の太陽」と呼ばれ、大山十五世名人に続いて将棋界に一時代を築かれた方ですので、体調が完全に戻り次第「中原誠全集」のような本が出版されることと思いますが、2010年3月現在では本書が中原先生の最新の著書となっています。

問題図の上にはその局面の簡単な状況説明が、下には候補手が2択で示されています。また、一部の問題についてはページ下部(約1/3)に対局者の寸評も掲載しています。

玉飛接近の悪形を咎める軽手があります。

第45問 A級順位戦 ▲中原 △森下(便宜上戦後逆) より:図は△3二同玉まで
候補手はA:▲2二歩 B:▲4二歩。正解は次の▲4一金と打つ手を見たBの▲4二歩です。以下@△4二同銀は▲2四歩が詰めろですし、次の▲2五飛もあって受けづらい形です。A△8一飛は▲4一馬△同飛▲同歩成△同玉▲8二飛、B△同玉は先手の馬に近寄らせたので、大きな利かしとなります。

中原十六世名人による対局者の寸評コーナーがスペースを設けて用意されているにも関わらず、実際に寸評があるのは187局という同一カード最多記録を持つ米長永世棋聖をはじめ、羽生・佐藤・渡辺・郷田・加藤などの一部の棋士のみで、他のページの空いたスペースには著者を模したイラストが挿入されているだけです。

ほとんどのページの約1/3のスペースがこんなイラストで埋められていれば、手抜きだと思われても仕方がないと思います。これならば「羽生善治の必殺の一手100」シリーズのように問題図に至るまでの進行手順を途中図を添えて解説するなど、ほかに構成を充実させることもできたはずです。

ただし、加藤一二三九段の寸評で『番外のパフォーマンスは強烈なものがあり、対策のため、耳栓をして対局に臨んだこともあります。』の一文には笑わせていただきました。あの鼻を「ズズズッー」と鳴らしたり、空咳を連発するのは大名人にとっても悩みだったようです(笑)。

本書を読むなら「サンデー毎日」の同名連載を単行本化した「自然流 この一手」の方が断然いいでしょう。タイトルは似ていますが、そちらは中・終盤をテーマにした「ミニ自戦記」といった内容になっており、プロの指しまわしを堪能することができ読み応えがありました。