羽生善治 妙技伝(犬研シリーズ Vol.1)

木本書店の本は高い
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評価:C
対象者:5級〜六段
発売日:1993年4月

"終盤の魔術師"の異名をとる森九段(ケイジの「けい」が表示できない 笑)が主催していた研究会「犬研」。戌(いぬ)年生まれの棋士が集ったことからなんだか可愛いネーミングが付いていますが、メンバーは森・羽生・森内・森下(戌年生まれではないが特別会員)・先崎・小野(修)と豪華です。

この犬研メンバーの実戦譜から勝局を100局ピックアップし、次の一手形式の問題で中・終盤の読みを鍛えようというのが、本シリーズの主眼です。シリーズ第1弾となる本書は羽生竜王(当時)の実戦から300問が出題されています。

全434ページの2章構成でページ左側に問題(2問)とヒントが、そしてページを捲ると3〜5行程度の解説と参考図が掲載されています。目次は以下の通りです。

  • 実戦次の一手300問
  • 羽生善治・勝局100番(1990年〜1992年の棋譜)
  • 巻末付録・第5期竜王戦(羽生・谷川)全棋譜
一気に寄せきります

第240問 ▲羽生 △森下より 図は△6六同歩まで
ここで▲2四桂が決め手です。△同銀は▲4二龍、△3一玉は▲3二金、△2二玉は▲3一角ですので、△2四同歩と取りますが、そこで2三の地点に空間を作っておいて▲4一角が後続手です。

▲4一角に対して玉が逃げるのは詰みですし、△同玉も▲4二銀成△同銀▲2三角△3二合駒▲5二金からの追っかけて詰みとなります。桂馬を犠牲に駒を打つ空間を作る手筋は、先日レビューした「将棋・ひと目の寄せ 終盤で必ず生きる200問」の盤面図の応用ですね。

華麗な一手が決まるように作った問題集ではないので、ひと目で分かる問題はほとんどありません。「5手一組」「7手先を読む」といったヒントが多く、正誤は別として自分なりの解答を出すのにそれなりの読みの裏づけが必要とされています。

また、一局の将棋の中・終盤から複数の問題が出されますので、掲載されている棋譜を並べなくても、おおよそどのような流れで局面が進んだのかが把握できるのもよいと思いました。

本書の場合「羽生善治の戦いの絶対感覚」と同じ題材も登場しますので、デジャヴ感がある方は相当な愛棋家なのではないでしょうか。

気になる点としては、羽生四冠が後手の場合も盤面はひっくり返さずにそのままですので、違和感があります。冒頭に『相手方の最善手を読んだうえで、それを上回る構想を打ち出すことが不可欠…(中略)…あえて先後を入れ替える事はしていない』と書いてあります。清水市代女流も「相手の好手を読むこと」を上達のコツに挙げていましたので、頑張って先手の目線からチャレンジしてみましたが、やっぱりしんどかったです(汗)

また次の一手問題の元となった100局分の棋譜が掲載されていますが、ホントにただ棋譜があるだけです。3800円と無理攻め気味の価格設定ですので、せめて棋譜の横に簡単な注釈をつけて欲しかったですね。

それと盤面図の誤植が酷いです。第163問(P175)は後手の△9一角が先手の▲9一角となっていたり、第233問(P245)は▲6六銀が△6六銀と後手(羽生)の駒とすり替わっており、いきなり優勢な局面が誕生しています。解説を読んでも納得できないので、棋譜を並べてみたところ、やっぱり・・・という感じでした。

前書きにはシリーズ刊行の順番として『1.羽生、2.森、3.森下、4.森内、5.先崎、6.小野の予定なのでお楽しみに。』とありますが、17年たった現在も3巻で止まったままです(笑) やはり売れなかったのか…

シリーズ続編となる「森けい二 妙技伝」と「森下卓 妙技伝」も構成は同じですので、そちらのページには書くことがありません(手抜き)。本書のレビューを参考にしていただければと思います。

なお、羽生四冠の実戦を題材にした次の一手形式の問題集には「羽生善治の必殺の一手100―羽生マジック傑作選」シリーズがあります。出版社は異なりますが、いずれも本書と同じく森九段(著)、羽生四冠(監修)となっています。内容・価格共にそちらのほうが優れているので、気になる方はチェックしてみてください。